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「神事で使う楽器が悉く苦手でねぇ……」 「いっそ、学校ん時に使ってたリコーダーは?」 「りこーだー?」 「神事に縦笛を吹いてどうするんだい。 というより、あれも破壊的じゃなかったかねぇ……」 「縦笛ならば良いのですか?」 「いや、あれもさっきのと同じようなものだ。 ばあ様、やはり代役を立てた方がいいんじゃないか?」 「ふぬぅ……」 豊作の感謝を捧げる祭りで、代役を立てるのはやはり気が進まない。 だが、社務所にいる者たちを駆り出しても、人数が足らない。 「ご尊父さまやご母堂さま、他のごきょうだいにもお手伝い頂けば、何とかなりませぬか?」 「家系的な物なのかねぇ……。 我が家の男子は皆こうなんだよ。 分家の男子も漏れなく」 「………………はい?」 目を丸くする咲良。 「俺たち二人でこうだろ? あと何人か集まって吹けば、すんごい竜巻が起こるよ」 「障子が歪んで外れて飛ぶし、窓ガラスが弾け飛ぶ。 あと、大粒の雹も降る」 「………………な、なんと……っ。 音響兵器さながらではありませぬか……!」 「やっぱり、他の神社から借りようかねぇ……」 ふぬう……。 その場にいる全員が溜め息をこぼした。 「女性の皆様は大丈夫なのですね?」 「んん……。無難、という程度だけどねぇ……」 「秋の祭りまであと一ヶ月ありまする。 女性の皆様には引き続き練習をして頂いて、あとは……」 ちろり。 守弥と時雨に視線を移す。 「わたくしも末席に入りますが、やはり男子の姿が必要でございますね……。 守弥さまと時雨さまに頑張って頂きまするか……」 「「………………う……」」 「ご尊父さまやごきょうだいも、暫く猛特訓していただかねば。 お祭りの直前までには、わたくし、なんとか仕上げてみせまする」 キラーン! 緋色の瞳が煌めいた。

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