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「わたくし…思い出す度に顔から火が出てしまいそうです…」
「ははは…」
緊張のあまり、咲良はギコギコと音が聞こえそうなくらいにぎこちない歩きをしてしまったのだ。
右手と右足が揃って出たところで、頭の中が真っ白になってしまった。
『は、はわ…っ』
直さねば、普通にしなければと思うほどに動きはどんどんぎこちなくなる。
「え、なになに?」
「緊張してるっぽい」
「ちょ、ゴリ子の弟ってマジ?」
「ゴリゴリのゴリ子の弟がウサギちゃんって…」
「え、かわ…っ」
ガッチガチの緊張した状態のまま教卓の前に着くと、担任が声をかける。
「だ、大丈夫か?
ちょっと落ち着いて。
ゆっくりでいいから自己紹介しようか」
「は、はい…っ」
生徒の視線を一身に浴びて、顔は蒸気が吹き出しそうな程熱く、鼓動の音が耳元でものすごいことになっている。
「あっ、あの…っ。
…、お…っ、……仰木咲良と申します…っ。
初めてのことゆえっ、ご迷惑を、沢山っ、おかけするかと、思いますが…っ、どうぞよろしくお願いいたします…っ」
精一杯の挨拶をし、お辞儀をする。
足はガクガクするし、なんだか体全体がぷるぷるしている感じがして。
床もぐにゃぐにゃしているのではないのかと思える。
「ああもう…っ」
一番後ろの席でその様子を見かねた人物がズカズカ歩いてきた。
「とりゃ」
ぱぁん!
「ふえっ!?」
しゃんとしろと背中を叩いてくれたのは咲耶だった。
「あたしの弟!
この通り、ヤマトナデシコなあたしよりも奥ゆかしくておとなしい子だからね!
よろしく!」
「よっ、よろしくお願いいたします…っ!」
「緊張しいだからさ、お手柔らかにねっ!」
ド緊張気味の咲良をフォローし、軽口を叩きながら席に戻っていった。
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