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「失礼。緊急事態ですからお許しを」 手に持った扇子で空間を切り開き、よっこいしょと床に降り立つ。 狩衣姿で現れたからか、なんとも非現実的だ。 「はわわわわわわ…」 「あ、大丈夫ですよ、お気になさらず。 通りすがりの神職ですので」 腰が抜けた保健医を椅子に座らせ、ベッドに視線を向ける。 「おやおやおや…見事に潰れて…」 咲良の様子を見つつ、ぺたぺたと開けた空間に蓋をする。 「大体は分かってんでしょ?」 「概ねは。 取り敢えず、おばあ様に連絡を飛ばして…と。 ちょっと待っていなさい。 応急手当的なものを…」 ひょいっと何もない空間に腕を突っ込み、何かを引っ張っている。 「これ、しがみつかない! 必要な物が揃えばそちらに行きますから! 手を離しなさいって!」 「………?」 「雲外鏡や猫又が咲良さんの様子を見ようとして離さないんです。 困りましたね…」 ふう。 ため息を一つつくと、今度はひょいっと小柄な影が現れた。

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