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「篳篥さま、竜笛さま。
秋の祭りまであとひと月しかありませぬ。
ひと通り吹けるようにご教授いただく訳にはいきませぬか?」
『わしらが?』
「はい」
『このうつけどもにか?』
「はい。
お腹立ちはごもっともなれど、如何せん本番までの日にちに限りがございますれば……」
傍目から見ればおかしな光景だろう。
だが、咲良は篳篥と竜笛に懇願する。
『お主だけが一生懸命でもなぁ』
『こっちの若いのがどう思ってるか分からんしの』
ちろり。
目がない筈の笛から視線を感じて、守弥と時雨はギクリとする。
『本当に上手になりたいのかのう?
面倒くさいな、しーでーとやらで済ませた方が早いと思うておらぬかのう』
『やれやれ、口煩い付喪神だ。
面倒ごとは早く済ませたいなとか思うておらぬかのう』
ギクリと固まる二人。
だが、咲良も負けてはいない。
「お二方は、何百年も生きておられるのでしょう?
それだけ長く存在してこられたということは、数えられないくらいの名手を育てられたのではないのですか?
これだけ不満を抱えられていらっしゃるなら、守弥さまと時雨さまを上手にするくらいは朝飯前なのでは?」
『お?
そうだのう。この下手くそな若者の一人や二人、朝飯前よの』
『うむ!
ひと月あればそれなりの腕前に仕込めるだろうて』
「お願いいたしまする!
どうか、ご教授を!」
『おう。任せておけ』
『わしらがいれば百人力!』
「「………………」」
あっけにとられる守弥と時雨を余所に、咲良は付喪神から教授の約束を取り付けてしまった。
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