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「体のあちこちがギシギシしてるような気がする」
練習を終えて戻る道すがら、守弥がポツリと呟いた。
今までまともにやれなかったことを、咲良に見られるのは恥ずかしい。
今回はなんとかなると取り繕ったのだが、結局はとんでもない音を聞かせてしまった。
「肩も肘も指もガチガチに力んでいらしてましたもの……。
いつもは力を入れない場所がガチガチになると、疲れたりギシギシ軋んだりいたします。
でも、今日1日で良くなった所が沢山ございます。
きっと、綺麗な音色が響くようになりまする」
「そうか?」
「はいっ」
高く結い上げた髪を揺らし、目を細めて笑う咲良。
練習中も守弥と時雨を貶したりしなかったし、忍耐強く待ってくれた。
「もう少し、練習してみるか…」
「根を詰めるのは良くないのでは…?」
「もう少しだけ、な」
「…………」
部屋に戻り、寝台に腰かける。
「息の出し方が、どうしても一定にならなくてな」
「では、わたくしもお手伝いいたしまする」
蘆舌(リード)をつけ直し、ゆっくり吹く。
乱れた音の原因になっている指を咲良がずらし、正しい位置におく。
吹いては直し、直しては吹く。
ふ…ぷいい!
「力を入れると指が立ちまする。
力まずに…、そう…」
ふいい~。
「ふふ…っ、音がきれいになってきました」
譜面とは関係の無い音の連なり。
咲良が言う通りにするだけで、篳篥の音は少しずつ良くなり始めた。
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