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「………っ」 虚無感が渦巻いていた鼻先に、一番嗅ぎたい香りがきた。 「はぐぅ…」 もっと嗅ぎたい。 胸いっぱいに吸い込みたい…っ! ぐるぐる巻きの毛布から必死で抜け出そうとするが、手足に力が入らない。 視界もぼやけてうまく見えない。 どんどん黒く塗りつぶされていく。 「も……」 「咲良…っ!」 肩で息をする守弥に、毛布ごとぎゅうううっと抱き締められた。 「は…ぅ」 「咲良!」 毛布ごとぎゅううっと抱き締められて、好きで好きで堪らない守弥の香りが鼻先にある。 はぐはぐと喘ぎながらもその香りを深く吸い込もうと肺を大きくしようとする。 「咲良」 「はうぅ…」 苦しい。 吸いたいのに吸えない…。 それを察して守弥が毛布を一旦剥ぎ、ネクタイを抜き取って襟元を緩める。 それから寝台に横たえて気道をしっかり確保し、咲良の口を塞いだ。 「「……………っ」」 その場に居る皆が間に合ってくれと願う中、守弥は薄い背中に腕を回し、咲良が息を吐きやすいようにする。 ふぅ………ぅ…。 「咲良、もう一回だ」 大きく息を吸い込み、再び空気を送り込む。 肺の中に守弥が吹き込んだ息が満ち、苦しさが引いていく。 「は…ぅ…」 「上手だな、……もう一回」 ふうううううう…。 「は…ぅ」 はぁ………。 「上手に出来るな?」 「はぅ…」 もう一度吹き込まれて、背中を摩られる。 ゆっくり息を吐くと、額に口づけが落とされた。 「はぅ…ん…っ」 ふるふると震える手を守弥の背中に回す。 「怖かったな…。 もう大丈夫だからな…?」 「……っ、ひう…ん…っ、んう…」 優しい口づけが瞼に。 「ん…、ん…っ」 鼻先と鼻先が触れ、頬に口づけが落ちる。 大好きな守弥がくれる口づけが、少しずつ咲良の体に残る強ばりを溶かしていった。

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