653 / 668
・
「わたくしが…巣作りしないと…守弥さまがお困りになる…。
寂しい思いをされる…」
「ああ」
「とても、……しょぼーん…と」
「ものすごく、だな」
「しょぼーんとされるのは…悲しゅうございまする…」
咲良は守弥の眉間に触れる。
「しょぼーんは嫌でございまする…」
「ん」
「困らせとうございませぬ…」
「そうだな」
眉間に触れる手が、八の字になった眉を治そうと頑張っている。
皆が息を詰めて見守る中、守弥が小指だけを立てた手を差し出す。
「………っ」
「約束な」
「………」
「焦れ焦れの時はちゃんと巣作りする」
「いっぱい散らかしても…?」
「もちろん。
盛大に積んで散らかしてくれ」
「巣作りしてもお困りには…?」
「して貰えない方が困るし、悲しいし寂しい。
ほら、約束してくれないと、もっとしょぼーんな顔になるぞ」
「うう…」
「約束」
「………」
「約束してくれ」
目の前に差し出された小指を見る。
「約束。ちゃんとしてくれないとな…」
「………お約束………いたしまする…」
「ん」
キュウッと指を絡めると、ようやく守弥の眉が八の字ではなくなった。
「お約束……いたしまする…。
巣作りいたしまする…」
「うん」
「守弥さまが、しょぼーんとされないように………わたくし、しかと……巣作りいたしまする………」
「いい子だな、咲良は」
チュ。
「……んに…」
指を絡めたまま、何度も唇が落とされる。
『………なんというか、その…』
『鬼が自ら尻に敷かれに行ったな』
『あ、やっぱそうなんだ』
『上手い誘導の仕方だよな~』
『これならもう心配ないよな』
『そうだな』
はらはらして見守っていた付喪神や式神がそっと陰行していく。
『これで大丈夫だな。
鬼は対の尻に敷かれてこそだからな…ふふ…っ』
猫又の姿のご祭神も、そうっと大気へ溶けていった。
ともだちにシェアしよう!