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数時間後…。 白衣(びゃくえ)と呼ばれる小袖に緋袴、その上に千早という上衣を纏った姿の咲良に、守弥が手を差し出した。 「大丈夫。 俺がついてる」 「は…はい…」 少し癖のある髪を抑える案もあったが、姫乞いの儀の時と同じ髪型にした守弥。 狩衣姿に心臓が跳ねる。 『……っ、普段も凛々しいお姿なのに、こんな……優しいお顔をされたら…っ、反則でございまするぅ…っ』 婚姻届を出してから二週間、ぎゅうぎゅうハグ、おでこグリグリからの瞼に口づけや耳殻ハミハミ等々、めためたに甘やかされて鼓動の激しい日々であったのに、更に胸がきゅううさせられるとは…。 「普段の姿もいいが、姫乞いの儀の時の衣裳も咲良らしくていい。 髢もよく似合ってる」 「…っ、え、えう…」 「舞いの時も着てたが、今日が一番綺麗で可愛いな」 「はっ、……はぐぅ…」 柔らかい笑みに頭が一瞬クラリとする。 『い、いけませぬ…っ! 大事なお式の前に鼻血が出てしまいそうに…っ』 ばあ様のとっておきの絹であつらえた千早に鼻血をこぼしてしまわぬよう、咲良は小鼻を懐紙で押さえた。 「さくら、きゅんきゅんしとる…」 「うんうん。 今日も安定の可愛さだねえ」 ばあ様と雲外鏡が頷きながらも激写していたのは言うまでもない…。

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