658 / 668

「おばば、そろそろ拝殿に向かわないと」 「んだんだ!」 先導役の猫又達が声をかけにきた。 「おお、危ない危ない…! すっかり激写に夢中になっていたねぇ」 「今日のさくらは特別可愛いからのう」 「滾っちゃったねえ」 ほくほく顔で袂にカメラを仕舞い、拝殿へ向かう。 「………」 控え室から拝殿の前まで歩いている内に、咲良は心臓が早鐘を打っているかのような気がしてきていた。 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ! おかしい。 心臓は耳の近くであったろうか。 足元がふわふわする。 顔が滅茶苦茶熱い。 拝殿の前に着いたところで先に歩いていた守弥が止まった。 ぽすん! 「はぶうっ」 「……!?」 守弥の背中に思いっきりぶつかった。 床に倒れる前に抱き止められる。 間近にある凛々しい顔に、更に心臓が跳ねた。 「ううう…」 「大丈夫か? 頬っぺたが結構熱いぞ」 「ら、らいりょうぶれす…」 何処か痛めてないかと案じる守弥に、ばあ様がタオルにくるんだ保冷剤を差し出す。 「これで落ち着かせるといいよ」 「あ、ありがとう」 「緊張しやすいからねぇ。 そこがまた可愛いんだよ」 火照った頬を冷やす様子に、ばあ様が目を細めた。

ともだちにシェアしよう!