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「うんうん。いいねぇ」 ほほえましい光景をすかさず雲外鏡が激写している。 「まだ時間に余裕があるから、もう少し冷やしておあげ」 「ああ」 普段の咲良にはない狼狽えっぷりが可愛くて、ばあ様も雲外鏡もかなり上機嫌だ。 守弥は少しでも咲良が落ち着けるように、頬や首筋を冷やしていく。 「おいら達がついてるから、ばば様は先に中に入ってた方がいいと思うぞ」 猫又が声をかける。 「そうかい? もう少しさくらの可愛い様子を見てたいんだけどねえ…」 「気持ちもわかるけど、そこはほら、とっつぁんがばっちり激写してくれっから…」 「うんうん。 わし、いっぱい激写しとくで」 「そうかい…? それなら言うことをきいておこうかねえ…」 猫又に促され、ばあ様が名残惜しそうに扉の中へ入っていく。 席にばあ様が座ったところで、鈴の音が鳴り始めた。 しゃぁああ…ん。 しゃぁあああああああぁん…。 微かな音から始まった鈴の音。 幾重にも重なり、拝殿の中で響き渡った。 「咲良」 「はい…っ」 「照明が落ちたら俺が先に入る。 落ち着いて進むんだ」 「はい…っ」 「待ってる」 「……っ」 額にひとつ、口づけが落ちる。 鬼の面をつけ、守弥が扉の中へと入って行った。

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