660 / 668
・
左右に親族席があり、真ん中は開けられていた。
そこを守弥が歩いていく。
「………」
殆どが守弥に気づいていない。
気づいているのは、ばあ様と宮司くらいなのではないだろうか。
荊櫻の次男の璃音が作ったプロジェクションマッピングが、巧妙に守弥を隠している。
歩いていく先にあるのは見事な枝垂れ桜。
その上には柔らかく光る満月だ。
「………」
祭壇の前に着いたところで、桜の花びらが一枚ひらりと舞い落ちる。
しゃりぃぃぃぃぃ……ん。
しゃぁああぁぁぁぁん…っ。
鈴の音が響くと、花びらが増えていく。
しゃりぃぃぃぃぃ……ん。
しゃぁああぁぁぁぁん…っ。
増えた花びらが風に乗り、更に増えて守弥の周りを取り囲む。
『んんん…?
こんなに手が込んだ映像だったかねえ…』
昨日璃音から見せて貰ったマッピングと微妙に違うような気がするが…。
『…ま、…めでたい場だし、様子見しとこうかねえ…』
何事もないような顔をして、ばあ様は事態を見守る事にした。
その間にも桜は変化を続ける。
ざあああああああっ。
球体の形で渦巻いていた花びらが、ゆっくりほどけていき…。
満月と枝垂れ桜を背にした鬼が拝殿に現れた。
扉の向こうで笙や篳篥の音が響く。
「さくら、もう少しだぞ」
「は、はい…っ」
面をつけ、袿を被る。
扉が開き、咲良は一歩踏み出した。
ともだちにシェアしよう!