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満月に照らされた隠し宮の御神木が見える。 その下に佇む守弥も。 ゆっくりと差し出された手にいざなわれるように咲良は一歩踏み出す。 「あなた、これは…」 「うん。あの日の…」 咲良の両親が小さな声で囁く。 そう。 姫乞いの儀の再現だ。 参列者の足元にはいつの間にか鈴蘭水仙が咲き、チリチリと可愛らしい音を立てている。 「………」 一歩。 また一歩と進む度、咲良の足元で波紋が起こる。 「うしゃこ…綺麗…」 「うわぁ…」 「さくらちゃん……」 弟妹達がため息をこぼす。 底無しだと伝わる選定の泉。 その上を咲良は進んでいく。 月明かりに照らされて仄かに光る花びらが舞う。 『密かに撮影してはいましたが、こんなふうに再現出来てしまうんですねえ。 さすがは鬼夜叉の次男…』 隠し宮での儀式を幾つかのアングルで撮影していたデータを璃音に渡していたのは宮司だ。 『ここまで精巧に作り上げるとは驚きですねえ…』 咲良が泉の上を恐る恐る歩いていく。 さやさやと枝が風に揺れる音。 宙に舞っていた花びらが水面に落ち、小さな波紋を起こす。 あの日、恐ろしい鬼に食われる覚悟を決めて、でも戸惑いながら泉を渡った。 一年後の今日、守弥だけのものになる為に泉の上を渡る。 差し出された手に、そうっと触れ。 鬼の元に姫がたどり着いた。 ひらりひらりと一枚の花びらが宙を舞い、選定の泉に落ちる。 しゃあぁぁぁぁぁん… しゃぁぁぁ…ぁぁん… 起きた波紋が広がり、鈴の音が幾重にも重なって響き渡り…。 舞っていた花びらが渦を巻き、二人を取り巻いて球体になった。 「こんなふうに界渡りして来たんだねぇ…」 「綺麗…」 そして。 風が吹き、花びらが作り上げた球体がゆっくりとほどけていく。 二人が立つ場所は、本宮の石庭になっていた。

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