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「どうですか? 好きすぎて切ない感じになって来ませんか?」 「うう…、胸がギシギシいたしまする」 「苦しくなってきたら、香りを目一杯吸い込んで」 「吸い込んで…?」 「そこで初めて守弥どのを見上げるのです」 「見上げて…?」 「貴方と視線が合ったら、そこで浮かんだ言葉を伝えるのです」 「…………っ、」 「胸がギシギシするくらい心の臓に好きが集まってきているなら、守弥どのにきっと想いは通じます」 「………は、はいっ!」 背筋をピンと伸ばし式神の教えを反芻する咲良は、頬がほんのり染まり、目はウルウル潤んでいる。 『この状態の咲良をさ、不意打ちで守弥に突き出したらどうなるかな』 『そりゃ~もう…』 『欲情しちゃうんじゃねえの?』 『するよね』 『確実にするのう』 『ばばは入籍するまで理性が持たないと思うんだよねぇ…』 付喪神とばあ様は、ヒソヒソと話し合う。 お互いに甘噛みしてから、確実に咲良は守弥への想いを深くしている。 対の姫が巣作りをしたということは、心身ともに鬼の愛情を受け入れる準備が整いつつある証だからだ。 それでもまだ愛情を伝えきれていないと感じていたとは…。 「さくら、ちょっと深呼吸してごらん」 「あっ、は、はい…」 ゆっくり呼吸を整えさせ、ばあ様は咲良の背中を撫でる。 「そうかい…守弥に伝えきれていないと思ってたんだね?」 「はい…」 「じゃあ、さっきの方法を後で試してみようねぇ」 「はっ、はい…」 「今じゃなくて、守弥と二人っきりになったら、だよ?」 「あっ、はっ、はい…っ」 守弥の魂の核を内包しているからなのか、それとも、純粋に恋慕うからなのか…。 後者であれば、咲良の想いは確実に深いもの…。 守弥も咲良に対して深く愛情を抱いている。 どうか、守弥が石化を免れた上で咲良の命も永らえて欲しい。 そう願うばかりだ。

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