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頬をほんのり染めて、咲良が呼吸を整える。 「大丈夫か…?」 「はう…」 吐息が混ざり合う近さに、胸の高鳴りが止まらない。 「ん……、……ぅ…」 気遣われることの嬉しさや守弥への想いがあふれ出てしまいそうなくらいに、心臓がぎゅうぎゅうする。 「大丈夫だ。 ゆっくり息を整えよう…」 「は…い……っ」 はくはくと喘ぐような息になる。 背筋を駆け抜けた電流が、まだ抜けきれていないような気がする。 ピリピリと。 じわじわと甘い余韻が残っていて。 「焦らなくていい。 ゆっくり呼吸を整えてからでいいから」 「は……い…」 額を合わせたまま、吐息が混じり合う。 それだけで体の芯に熱が点る。 早く。 早く触れたい…。 熱を帯びた吐息に守弥が応えるように、鼻先を触れ合わせてくる。 は…あ…。 どうして守弥は咲良がしてほしいことをこんなに察してくれるのだろう…。 いつも気遣ってくれる守弥に応えたい…。 『………い…と…、…』 「……ん…?」 「いと…しゅ…ござ…まする…」 「……っ」 小さく囁いた言葉が微かに聞こえたのだろう。 春日の両親と咲耶の呼吸が一瞬止まる。 『うーわー……。 いつもだったら照れて絶対に言えてないよねぇ…』 『好きで好きで堪らないんだねぇ…』 『ばりばり食べられちゃう予定で嫁いだのに、一年後にはお互いめろめろになっちゃうなんて…』 恐ろしい存在とされていた鬼と相思相愛の関係になるなどと、想像がつかないことだった。

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