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「うんうん。 良かったねぇ…」 「良かったですねぇ、おばあ様」 「うんうん…」 咲良の痕跡を追った守弥の旅。 それを見守りながら、ばあ様も思い出していたのだ。 あの里の一角にある社(やしろ)に、生まれて間もなく預けられた赤ん坊との日々の暮らしを…。 元々物覚えが良かった香久良は、神事や薬草の知識をどんどん吸収していった。 一を教えれば十も百も覚えたほどに。 いずれは生家の許しを得て、林の向こうに住む若者と結ばれてくれたらと願ってもいた。 どうか無事に逃げのびて欲しいと送り出した筈が、幾度も刺し貫かれて無残な姿となり、里の辻に引きずられて行ったことを。 弔いもないままに魔除けとして埋められたことを嘆き、傍らで血を吐いて亡くなっていた護矢比古の母と共に密かに弔ったあの日のことを…。 荒れに荒れた里の復興に携わる日々のなか、もっと他のやり方があったのではないか、無事に逃げおおせる方法があったのではないかと、悔いて悔いて嘆いた。 「本当に、この一年がたのしくてねぇ…」 「可愛らしい上に神事には明るいし、有能な弟子ですからねぇ」 「将来が楽しみ過ぎて、まだまだ常世の国には行けそうにないねぇ」 「まだまだですよ。 まだまだ、私も教えて頂かねばならない事が沢山あります。 咲良さんもね」 「そうだねぇ…」 ふわり。 薄紅の花びらがひとひら舞う。 しゃりぃぃぃぃん。 微かに鈴の音が響き、一枚が二枚に、二枚が…更に倍に増え、ふわりふわりと守弥と咲良の周りを舞う。 「今日のご祭神さまも、大盤振る舞いだねえ」 長い長い旅と試練を乗り越えた二人へのことほぎの花吹雪…。 暫し二人の周りを舞い、親族の席へも吹いていく。 これからの幸せを願う皆への祝福の花吹雪でもあるということなのだろう。 「わあ…っ」 「きれい…」 しゃぁりぃぃぃぃぃん…。 しゃあぁぁぁぁぁぁぁん…。 「………?」 鮮明であった古の出来事の記憶がフワリと抜けていく感覚。 「守弥さま…?」 「昔のことは忘れろということのようだな…」 「………はい…」 幸せをことほぎつつ、遠い遠い過去の悲しみだけを花吹雪はさらっていく。 「ご祭神さま…」 これからの幸せな日々に、遠い遠い過去の悲しい記憶を残しておくことはない…。 『新たな門出に過去の災いは要らぬでな…。 なぁに、一気には抜かぬ。 少ぅしずつ薄れていくゆえにな…』 風に乗ってご祭神の声が聞こえた。 ばあ様に視線を向けると、うんうんと頷いている。 「わたくし…、悔いのないように…毎日過ごしまする…」 「…そうだな」 「大好きという気持ちを、沢山…ぎゅうぎゅういたしまする…っ」 「俺もそうする。 いつまでも、仲睦まじくあれるようにな」 「………っ、…はぅ…」 額と額を合わせる。 魂の縁が深く結ばれたことが嬉しい。 好きで好きでどうにもならないくらいに好きになれた。 これから、この想いをもっともっと深くしていけるのだ…。 『もっともっと、守弥さまだけのわたくしになる…』 そう思うだけで、心の臓が跳ねる。 手も足もふるふるする。 『今生では、やや様を授かる事はできませぬゆえ…』 思いを子供という形には出来ないが、その分守弥に尽くして行けばいい…。 鬼夜叉の息子達が教えてくれたように、咲良もまた対である守弥の為だけに生きていくのだ…。 この婚儀からの日々だが…。 守弥の甘やかしが半端無いのは勿論だが、咲良の尽くしっぷりは目をみはるものがあった。 それも無理に尽くすのではなく、ごくごく自然なものであったため、目撃した式神や付喪神の皆さんは爆萌えが止まらず…。 ばあ様も激写激写の毎日となり、ほくほく顔が止まらなくなったのを追記しておこう。

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