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「何が足りないんだ?教えてくれ」 「あっ、あの…、わたくし…」 「俺の何が足りない?」 「守弥さまではないのです。 足りないのはわたくしなのです」 「はい…?」 守弥の膝の上で、咲良はかぶりを振る。 「わたくしは、守弥さまにお伝え出来ていない気がするのです」 「………?」 何がだ? 守弥は目をパチクリさせた。 「何を伝えられてないと思った? ゆっくりでいいから言ってみろ」 「は、はい…」 胸元に手をあて、心を落ち着ける。 「わたくしは、……守弥さまをお慕い申し上げております」 「………」 「時々、心や体が軋むくらいに…」 「………」 「なのに、……わたくしは………その気持ちを充分にお伝え出来ていないと思うのです」 「…………っ?」 咲良の言葉は、守弥にとって意外なものだった。 気持ちを充分に伝えきれていないと思っていたとは…。 「伝えきれていないと思ってたのか?」 「はい…。 わたくしは、自分の気持ちをしっかりと言葉に出来てはおりませぬ。 好きだという気持ちがどれだけ大きいのか、守弥さまがわたくしに仰るほどには言えていないのです」 「俺は足りないと思わないが…」 「いえ、わたくしはまだまだ言葉に出来ておりませぬ。 身も、心も、魂も、髪の毛一筋にいたるまで好きでいっぱいに満たしたわたくしでありたいのです…っ。 それが守弥さまに伝わるようにしたいのです…っ」 「………っ!」 ガツン、と。 守弥は後頭部を殴られたような気がした。

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