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「ん、……んぅ……?」
お互いに唇をハムハムと噛んで守弥が舌で唇をなぞった瞬間、
いつもとは違う感じがした。
好きで好きで堪らなくて、胸がキュウッとなるのとは違う感触。
ツクリ。
「んう…」
なんと言えば良いのだろう。
極細の針で心臓が刺された感じがしたのだ。
「……どうした?」
「い……え…、なにも…」
怪訝そうに覗き込む守弥に、何でもないと返す。
胸元に手を当てる。
服地になにかが刺さっていて肌に触れた訳ではないようだ。
「何でもありませぬ…」
「………本当にか?」
「はい」
守弥が愛しすぎて胸が痛くなったのだろう。
咲良はそう解釈した。
『わたくしの中の想いが、どんどん大きくなっているのでしょう…。
もっともっと、守弥さまを好きになっていけたなら…』
変な痛みが引けたのは、一過性の物だったからだと咲良は思う。
だが、それは違っていた。
これから二人を待ち受けるものの兆しであったのだと、後々気がつくのだが。
守弥との恋を知った今の咲良には、気づきようがなかったのだった。
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