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咲良が胸の痛みを覚えてから二十日あまり…。 準備に追われて本宮と外宮を往復しているうちに、秋の大祭が目前に迫っていた。 守弥と二人で行う舞いの練習に、咲良は勤しむ。 五穀豊穣を祝う里で鬼と姫が出逢い、恋に落ち、伴侶になっていくまでの物語だ。 ツキン。 「…………っ」 微かな軋み。 胸元に忍ばせた対の石に、服地の上から触れてみる。 じんわりと沁みるような温かさに、軋む痛みが溶けていく…。 いつかは目に見えるように身に付けてほしいと守弥は言っていた。 穴を開けて紐を通せばいいのだと。 でも、咲良には対の石を加工する気にはなれない。 大好きな守弥に危害を及ぼすような気がして…。 「さくら、そろそろひと休みしようか」 「はっ、はい…っ」 ばあ様の声に、意識が現実へ引き戻された。 縁側に座って一息つく。 「氏子総代が感心していたよ。 こんなに綺麗な舞いは見たことがないってねぇ」 「そ…な、わたくしはまだまだですのに…」 「そんなことないよ。 身のこなし、髪の一筋、指先に至るまで優雅だよ」 「……っ、………っ、男子なのにくねくねしていて気持ちが悪くなりませぬか…? 本当に…、本当に大丈夫でございまするか…?」 「大丈夫。 日に日に上達してるし、綺麗だよ。 気持ち悪くなんかならないねぇ」 「………っ」 ばあ様は咲良に偽りを言ったりしない。 殊に、神事や仕事に関しては…。 「皆が求める以上に頑張るから、ばばは少し心配だけどね…」 「いえ…そんなには…」 「自覚がないから、尚更怖いよ。 でも、その分……」 ふわ…っ。 「ふえ?」 膝の裏に腕が通され、ばあ様が視界から外れた。 「対の鬼が甘やかすからねぇ…。 守弥、昼寝は長めに取っておくれ」 「ああ」 守弥にお姫様抱っこされたまま、咲良は部屋まで運ばれた。

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