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暗転
秋の大祭が始まった。
参道には沢山の店が並び、食欲をそそる香りが漂う。
夏の大祭も賑やかであったが、五穀豊穣感謝の祭りも大賑わいだ。
控え室で準備をする咲良は、包みの中から琥珀色の欠片を摘まむ。
「綺麗…」
目の高さに翳すと、日の光を受けてキラキラ光った。
「鼈甲飴ね、咲良ちゃん」
「はい、ご母堂さま。守弥さまが下さったのです」
「あら、口の大きさに合わせて割ってあるのねぇ」
「……そうなのです。
ご母堂さまもお一ついかがでしょうか?」
「いいの?」
「はいっ。
分け合うのが嬉しいのです」
「じゃ、遠慮なく」
ぱくんっ。
「んん…。美味しいわねぇ」
「はいっ」
口の中で転がしながら味わう。
素朴で懐かしい味が舌の上に広がっていく。
「本当ね。
分け合って食べるのって、美味しいわ。
それと、嬉しくって気持ちがホコホコするわね」
「はい…っ」
最初は大きな板状だったのだが、守弥がパキパキと割ってくれた。
独り占めするのは何だか違う気がして、ばあ様や時雨、式神にも摘まんでもらった。
それでもまだまだある。
今はこれで我慢してくれ。夕方の休憩の時に出店を覗こう。
何が食べたいか考えておいてくれ、と一言添えて守弥は着替えに向かったのだ。
紅をさせば出来なくなるからと、優しく唇を啄んでから…。
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