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「無口で無表情だった守弥が、気遣いを見せたり咲良ちゃんを独り占めしようとしたりするようになって、私達安心してるの」 「ご母堂さま…?」 「お姉ちゃんの身代わりだって言ってたけど、やっぱり守弥の対は咲良ちゃんで間違いないと思うわ。 貴方じゃなければ、守弥はこんなふうに変わってないもの」 「……そ、そ…な…」 顔が熱い。 体も熱い気がする。 「守弥さまは、界を越える時にわたくしがはぐれないように…。 いえ、それよりも…」 「………? 聞かせて。咲良ちゃんにはどうなのか」 「選定の泉を渡って…、こう…、抱き上げていただいて…。 風が逆巻いて境界を越える直前に、宮司さまや両親に言葉をかけられました…」 「言葉を?」 「はい。 ご尊父、ご母堂、この場に立ち会いし皆に礼を申し上げる。 掌中の珠の如く慈しんだであろう子を、我の対として貰いうけた。 大事に慈しむ事を、固く誓おう…と」 「………」 「わたくしが思っていたより小さかったのもあるかも知れませぬ。 でも、あのお言葉を聞いた瞬間、心が大きく揺さぶられた気がするのです。 家族との縁の薄かったわたくしに、温かな情を初めから向けて下さった。 きっと、守弥さまは………あまり態度には出されなくとも、元々優しくて、情の厚い方……だと…思いまする…」 「そう…」 顔がどんどん熱くなる。 でも、こうして守弥の優しさや情が厚いことを明かすことは、大事なことだと思うのだ。 「やっぱり、守弥の対は咲良ちゃんしかいないわね」 「……………っ、えう…」 唯一無二だと言われたことを思い出し、さらに顔が熱くなる。 そうであったなら。 ずっと…、今生も来世も、そのまた次も。 守弥だけの自分であれたらと咲良は願っているのだ。

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