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衣裳を着て鏡の前に立つ。 里の娘を演じる上で面と髢(かもじ)をつけるかどうか、迷いに迷っていたのだが…。 神代のころの事だし、色合いがどうとかは伝承に無いからねぇ…。面と髢じゃ誰かわからないし、直面(ひためん)でどうかねと言ったのは、ばあ様だ。 「んだんだ! めんこい顔と綺麗な髪を隠すなんて勿体ねえよ」 「いつもの咲良がええのぅ」 「んだんだ!いつもの咲良がええ!」 「のっぺりしたお面とヅラなんかいらねぇだよ」 「ほぅら、やっぱり皆同じことを言ったでしょう?」 式神が面と髢をまとめて包んで運んでいく。 「でも…。 この髪と目は、悪目立ちいたしませぬか?」 「ないない。 神代の伝承だからねぇ。 氏子総代が咲良をお気に入りだし、誰も異は唱えない筈だよ」 「………」 「ほんのり白粉をはたいて薄紅をさせば大丈夫。 ばばに任せておけば、なんにも問題無いからね」 ニコニコしながら咲良の顔に薄く白粉をはたく。 「さくらはさくらのままがいい。 ばばの見立ては間違いないからね」 「………でも…この痣は…」 「それもね、多分、神秘的ななにかと捉えると思うんだよねぇ。 総代が何も言わないってことはそういうことだよ、さくら」 「………女装している、くねくねして気持ち悪いと思われませぬか…?」 本当に大丈夫なのだろうか。 直に晒して、観客が不快な想いをしないのだろうか…。 「大丈夫。ばばのお墨付きだよ。 ほぅら、可愛く仕上がった」 咲良の心配は杞憂に過ぎないと、ばあ様は請け負う。 確かにそれは正解であった。 準備を済ませて顔を出した守弥が、息を飲んだ後にニッコリと笑ってもくれたから…。

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