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さああああ…っ。
舞台の向こうから、風が吹いた。
「行こう」
「はい…っ」
二人が舞うのは、本宮と外宮に伝わる物語。
干魃から一転、大豊作に沸く里。
収穫祭に紛れ込んだ鬼が、一人の娘と出会う。
会瀬を重ねて、ひそかに恋を育んでいく。
「……ほう…、なんと美しい…。
さすが界渡りの姫」
総代だけではなく、ほとんどの観客がため息をこぼす。
「ここ何年か、がさつな姫だったからなぁ…」
「勇ましい足音だったな」
「ドスドスと、すんごい音だった」
「今年は、羽根のように軽やかだな」
「目がクリクリしてんな」
「外国の女の子かな、すんげぇ可愛い…っ」
概ね好評のようだ。
舞台下で進行状況を見ている分家の史朗も、あんぐりと口を開けた。
「………ま、マジかよ…。
姫の役やってんの、あの不細工かよ…」
「だぁから、不細工じゃないって」
「いてぇっ」
史朗に軽く裏手突っ込みをしたのは鷲志だが、二人の周囲には隠形した式神と付喪神たちがいた。
見えないのを良いことに、絶妙なタイミングで突っ込み…いや、見事な拳と蹴りが決まったのだ。
そして、舞いは密かに重ねた会瀬の結末へと進む。
互いの髪を結わえた飾り紐を交換…。
婚儀へと。
『いいのう。らぶらぶ…。可愛いのう…』
『若いもんはええのぅ』
『青春だのぅ』
『ええのぅ』
『うぶいのぅ』
『らぶらぶだのぅ。血が滾るのぅ』
『奥宮の雲外鏡にらぶらぶっぷりをライブ中継しとるよな』
『おう!』
『可愛いラブラブは、激写じゃ!』
付喪神が隠形して間近で激写する一方、ばあ様と時雨も望遠レンズや小型のドローンで二人の舞いを激写していた…。
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