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「あれ…?」
「ん?」
竜笛や篳篥の音に混じり、微かに清らかな音が聞こえる。
しゃ………りぃ…………ん。
しゃあ…………ぁん。
「綺麗な音…」
咲良が纏う袿が風に翻る度、鈴の音は清らに響く。
「不思議だね…。一個も鈴を身につけてない筈なのに」
「さくらの持つ力は、風に由来するものが多いからねぇ。
守弥と魂が共鳴りすると、大気も震える」
「恋をしてなきゃ出来ないことだね…、ばあ様」
「そうだねぇ…。
ご祭神さまも喜んでるみたいだ。ほら、あれ…」
「………っ!」
ばあ様が示したのは、奥宮がある山の方向。
柔らかな色彩が見てとれる。
「夏祭りの時よりも、もっと凄いご祝儀だねぇ」
「うわ…」
時雨もばあ様も驚きを隠せない。
風に乗り、その色彩が舞いの会場に近づいてくる。
「おや、これは…っ」
最初にヒラリと舞ったのは桜の花びら。
ゆるりと二人の周りで風に流されてから、観客席へフワリと舞い落ちる。
「なんと…!」
「桜…梅、桃……」
春の花の花びらから始まり、夏、秋、冬…、四季の花々の花びらが飛来した。
「………これほど見事なことほぎは見たことがない」
「あの姫はご祭神に認められたのですなぁ」
ふわりふわりと舞い落ちる花びらは、人に触れる度に大気へ解けていく。
人に触れて解けるということは、実体のないもの…。
ご祭神しかできないものだ。
「二百年ぶりの界渡りの姫…。
守弥との共鳴り…。
これは、何を暗示しているのか…」
「ことほぎの花が舞うということは、吉兆に違いないでしょうね…」
「総代…」
「気性も気質も元々惣領の器であったのですから、そろそろ分家の皆さんも考えを改めて良いのではないですかね。
幼い頃から嘲り、貶めてきた相手を認めるのは難しいでしょうが、時雨どのも守弥どのを時期惣領として推すと仰ってますし」
「………っ!」
穏やかながらも、総代の目は分家の大人達を射抜くものであった。
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