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「………っ、………っ」
必死で空を切り、何度も狭間を抜けて、咲良は薄暗い建物の中にたどり着いた。
「ここ…は……?」
肩で息をつき、中を見回す。
不思議な静寂に満ちた場所だ。
年若い鬼や、女性の石像がたくさんある。
「……っ、これは…作られた石像では…ない…!」
髪の毛一筋、眉毛や睫毛一本一本が彫り抜かれた像などあり得ない。
多分これは、石化の試練で石になった姫や鬼たちだと気づく。
みな、悲しみや苦悶の表情を浮かべている。
「怖かったでしょう…。
悲しかったのでしょう…」
でも。
咲良は守弥の石化を引き受ける事が出来た。
きっと、次に試練を受ける者は打開策を見出してくれる筈だ。
「わたくしの…命は…無駄には…ならない…」
ギシギシ…、ギシギシ…。
「……っ、………ぃっ」
心臓を捉えた術は少しずつ食い込もうとしている。
床にへたり込み、浅い呼吸を繰り返す。
すると、周りを取り囲む姫や鬼の像に変化が現れ始めた。
「………これは…」
しゃ…あ…りぃぃ…いん…。
しゃあ…りぃぃい………ん。
しゃありぃぃいん!
それぞれが少しずつ光り始め、形が見えなくなっていく。
さやりと生まれた一陣の風が吹き抜け、更に形を崩していく。
『ほんに』
『なごうござりました』
『ようやく』
『たびだてまするなぁ』
『かたじけない』
『くるしかったであろ?』
『われらが』
『さきに逝くゆえのぅ』
「………?」
石が大気に解け、代わりに沢山の花びらが舞う。
さやさやと。
ふわふわと。
ごうごうと。
とぐろを巻くように堂の中を吹き、引き戸を内側から弾き飛ばして風が吹き抜けた。
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