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沢山あった筈の石像は、一つもなかった。
代わりに、咲良だけがいて。
「咲良!やめろ!術を止めろ!」
「…………なり…ま…ぬ」
「何がなりませぬだ!術を止めろ!俺だけの姫だろう!?」
既に手足の先は石になりかけている。
痛くないようにそっと抱き起こす。
「咲良、考え直してくれ!」
「…………」
フルリとかぶりを振る。
「お願いだ。咲良…」
「それ…だけは…で…」
「考え直してくれ…、頼む…お願いだ」
「…………」
「行くな…。そばにいてくれ…」
ほたほたと流れる涙が、咲良の頬に落ちる。
「わたく…しは…果報者に……ござ…」
苦しさを見せず、花のように微笑む。
それが余計に守弥の心を締め付ける。
「ずっと、一緒だ…。たのむ…」
額に、こめかみに、次々と口づけを落とす。
考え直してくれと告げるように。
何度も何度も懇願しても、石化は止まらない…。
「不細工と…」
「………っ」
「不細工と、言われた…わた…くしを……愛し…くださっ………、
あり…が………」
ピキ…。
ビキビキ…。
ピキン……。
「……………っ」
術が心臓へ到達したのだろう。
微笑んだ表情のまま、咲良の呼吸が止まった。
「あ…ああ…、あ…、
嘘だ…。嘘だ、そんな…っ。
嘘だろう?咲良!返事をしろ!咲良!咲良!」
床に散らばった花びらを風が巻き上げる。
まるで、咲良の魂を天空へいざなうように…。
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