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一方、社務所の守弥は。
「……………」
息を止め、筆を走らせる。
すうっと引いて、キュッと止めた。
「……………」
余計な力が入らないようにして書いた文字は、以前に比べて良くはなっている……筈だ。
日付を入れて判を捺す。
「はい。出来ましたよ」
「ありがとうございます!」
差し出した御朱印帳を、参拝客は嬉しそうに受け取ってくれた。
「だいぶ仕上がりが安定してきたねぇ」
「そ、そうか?」
「字のばらんすが良くなったし、焦って変な力が入ることが無くなった感じがする。
これなら、ばばがついてなくても大丈夫かもしれないねぇ」
「………そうかな、俺はまだまだだと…」
咲良ならば、もっとすいすいと書いていた。
全体のバランスもさることながら、文字自体の流麗さが違う。
「出来ることからコツコツと、だよ」
「あ、ああ」
「大きいのが綺麗になってくれば、祝詞も任せられるねぇ」
「う………」
同じ大きさの字を延々と並べるのは未だ苦手な守弥には、大きな課題だ。
「練習あるのみ。今日もちゃれんじだねぇ」
「うう…」
目の前に置かれた巻き紙に、クスリと笑われた気がした。
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