「影写って言ってね、上から紙を重ねて写し書きをするんだよ」 「影写…」 「お手本に吸い取り用の紙を重ねて、その上にもう一枚乗せてなぞるんだよ」 「………あ、なるほど」 直接乗せて筆を走らせるのは抵抗があるが、間に吸い取り紙があるなら安心できる。 「咲良が書いたのは何枚かあるけど、汚したくないならコピーして使うのもありだよ」 「あ、そうか…」 「そう。 コピーしたお手本に紙を乗せて、留め跳ね払いの不安なところは原本を見るって感じかねぇ」 まずは原本を見る。 「…………」 「御朱印帳とは違うねぇ」 「ああ…」 御朱印帳の文字の流麗さは抑えてあるが、ひと文字ひと文字の丁寧さは同じだ。 大きさを揃えた文字の綺麗さに息を飲む。 「籠められた願い…咲良の想いなんだろうな…。 文字のひとつひとつがほんのり光って見える」 「そうだねぇ…。 本当の祝詞と同じくらいに想いが込められてる。 いつか祝詞を書くようになるからって、守弥の為だけに書かれたお手本だからねぇ…」 「………っ！」 自分のためだけの…？ それを耳にして、もう一度視線を移す。 「竜笛も毛筆も、咲良と一緒にいたから上達した。 帰って来るまでにもっと上達してなきゃ、尻に敷かれっぱなしになっちゃうかもしれないねぇ」 「確かにな。 本腰を入れて掛からないと、咲良が帰って来るのに間に合わない」 唇を真一文字に結び、守弥は毛筆を手に取った。