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ただただ無心に筆を走らせる。
影写ではあるが、少しずつ安定感が出てきた。
「………」
頭を空っぽにして書いている内に、咲良が石になった時のことをふと思い出す。
「ばあ様」
「ん?」
「咲良が…」
「………?」
「俺の中にあったなにかを引きずり出した時に、咲良と重なって見えたのは…起源の咲良だったんだよな?」
「多分…そうだと思うよ」
「そうか…」
夢か現か分からない。
だが、あのときに自分の中で慟哭していた声。
あれは、起源の自分なのではないのだろうかと思うのだ。
「俺の中にいた起源の俺を、起源の咲良は″もりやひこ″と呼んでいた」
「もりやひこ…」
「ああ。護衛の護に弓矢の矢…。それから、比べるの比に古い…で、護矢比古…。
起源の咲良は、かぐら…。
香りの香、久しいの久…、善良の良で香久良と呼んでいた…」
「かぐら……。さくらは、身籠ったままで非業の死を遂げた姫の方だったんだねぇ…」
「知っていたのか?」
「古い古い伝承だよ、鬼の血を引く二人の比古の話は。
一人は闇断ちの比古、もう一人は闇堕ちの比古。
香久良は闇断ちの比古と恋仲にあったらしいけど…」
「………そうなのか?
でも、俺の魂の核には闇そのものの呪いが籠っていた。
なら、なぜ…?」
「………?何か見えたのかい?」
「断片的なものだが………、起源の…、ああ…、ややこしいから端折るか…。
護矢比古と香久良は、婚約の証に髪飾りの紐を交換していた」
「………香久良と護矢比古が…?
伝承と少し違うねぇ…」
ばあ様も守弥も首を傾げる。
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