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「あと、断片的なものしか見えなかったが、護矢比古が呪いに染まっていって…香久良がそれをまとめて引っこ抜こうとして………、抜きかけてる時に二人とも刺し殺された…ように見えた」
「………」
「今回の咲良にしてもそうなんだが、呪いや危険なものを引き受ける側は……それだけ相手を思っているからこそ、それをしようとする筈だよな」
「………そう…だねぇ…」
「他の人間と婚儀をした娘が、破談になった相手の呪いを引っこ抜くだろうか…。
命をかけてまで」
「ふぬぬ…。
それだねぇ…ばばもそれが不思議だよ」
呪いを背負った護矢比古が闇堕ちの比古で、香久良が断ちの比古の伴侶という位置付けだと、どうしても話に無理がある。
身重の体で命懸けの呪い抜きをし、堕ちの比古もろとも殺されねばならない意味が分からない。
「堕ちの比古と面差しの似ている男も見えた。
多分あれが断ちの比古だと思う。
……………何か手に持っていた」
「何かを?
覚えてる限りでいいから、思いだしておくれ」
「あ、ああ」
咲良を追うまでの、短い時間に見た夢。
それを少しずつ思い出す。
「確か…………髪飾りの紐を交換して………婚約の報告をしようとして、多分、父親に報告をしようとした………。
それから、いきなり牢屋に閉じ込められて………断ちの比古が………何て言うのかな、壷のようなものを持ってきた」
「壷…?」
「壷というか、甕(かめ)というか、ものすごく臭くてドロドロした空気をまとったやつを持ってきて…」
「………」
ばあ様は、それがなんなのか気づいていた。
だが、守弥の話を待つ。
「数人がかりで堕ちの比古を押さえつけて、その中身を飲ませた」
「…………それが、呪いの本体なんだね」
「ああ」
なるほど。
ばあ様は合点がいった。
堕ちの比古は境界の向こうの魔物を引き入れた裏切り者ではなく、人為的に作られた呪いを飲まされて闇に堕とされたのだと。
「堕ちの比古に呪いをかけたのが断ちの比古。
なら、香久良が呪いを引っこ抜こうとしたのは、堕ちの比古に想いを残していた…。いや、断ちの比古によって…、ふえ?」
にゅっ。
守弥とばあ様の間に、閉じた扇子を掴んだ手が生えた。
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