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「………はい?」 社務所の宙に、男性のものとおぼしき手が生えた。 手首から上は見えず、ごく普通の男性のもの。 だが、掌にケロイド状の火傷の痕を認めて、守弥は目をパチクリさせた。 なんだろう。 何か、記憶の奥で咲良と関係のあるものだと感じる。 「不思議だねぇ…。手だけが生えるなんて」 「………悪いものなら、結界に跳ね返されてる筈だが…」 此方に危険なものがないか確かめているのだろうか。 扇子を上下に振ったり、空気をかき混ぜるような動作を繰り返したりしている。 「痛ぇ!」 試しに掴むと、パシンと扇子で叩かれた。 「なんだ…?何をしたいんだこの手は…」 「なんなんですか、これ…」 「不思議ですよね」 社務所にいた皆が首を傾げる。 ある程度確認が済んだのだろうか。 縦横それぞれ50センチの鉤型を宙に描き出した。 「……………よっこいしょ」 「は!?」 空間をペロリと剥くようにし、向こう側から男性が現れた。 「やれやれ。骨が折れますねぇ」 「ふが!」 捲った空間の向こうから跨いで出てきた足が、守弥の顔をグニッと踏んだのだ。 「ま、まさか…」 ばあ様がその手と足の向こうにある顔を覗き、表情を変える。 「此方に来るのは随分と久しぶりですねぇ…」 神職の出で立ちの男性が、ヒラリと降り立つ。 「……………!? 咲良がいた世界の…!」 「漸く気づきましたか。なかなかの鈍さ、嫌いではありませんよ」 クスクス笑いながら守弥の額を扇子で小突いたのは、彼方の宮の宮司であった。

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