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守弥から呪いを抜き取り石になるまでの間に、さほど余裕はなかったはずだ。 外宮から禁域へ必死に跳んだのだから…。 「知らせを飛ばす余裕が…?」 「いいえ。本人にはそんな余裕はありませんでしたよ。 飛んで来たのは、これです」 「………?」 宮司が懐から取り出したのは、ボロボロになった桜の花だ。 いや、本当の花ではなく、すりきれた和紙で出来たような花…。 「………なんだと思いますか?」 「……………」 「石像になる前の咲良さんは、何かが違っていた筈。 思い出してごらんなさい」 ゆっくり、噛み締めるように思い返す。 対の石を両手で包み込むようにしていて……、手足の先から石に変わり始めていて……………、それから………。 「…………………っ、……………まさか…!?」 石になった咲良をもう一度見る。 「無い!」 「へ……?」 「顔の左側にあった痣が消えてる…!」 「漸く気づきましたか。 そう。咲良さんの痣は、ただの痣ではありません。 呪いと自分の命数や霊力をぶつけた代償の証です」 「代……償…」 「ええ。 最初の香久良比売(かぐらひめ)の時からずっと、少しずつ浄化しながら生まれ変わって来て仕上げの段階まで来たからこそ、今生で黒い痣を背負って生まれたのです。 あなたの中に残った呪いをすべて抜き取り、自らの命とぶつけることで完全に浄化した。 浄化しきったことで、痣は返し(かやし)の風になったのですよ」 「かやし……?」 呪いは解かれると返しの風になって術を掛けた本人に帰る。 だが、この呪いを掛けたのは…。 「………護矢比古に呪いをかけたのは…」 「気づきましたか? 遠い過去の私なのですよ、護矢比古。 腹違いの兄であった夜刀比古(やとひこ)……、かつて一族の惣領息子であった私が貴方に蠱毒(こどく)の呪いを飲ませて闇に落としました」 「……………!」 ばあ様も守弥も、宮司の言葉に固まるしかなかった。

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