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「咲良が…戻れる……のか…?」
全身の血液が逆流してしまってるくらいの感触を覚えながら、守弥は宮司に問う。
希望は捨てていない。
だが、戻れる算段があるなら…。
「ええ。
言い直すなら、戻れる切欠をつくることなら出来る、ですがね」
「何でもいい。
俺が出来ることがあるなら、協力する。いや、させて下さい」
「……………」
「何年、いや、何十年かかっても、俺は咲良を待つつもりでいる。
確証もなく待つより、俺に出来ることがあるなら、それをしておきたい」
「………かなりの手間になりますし、身代わり童子か式神にさせることも出来ますよ」
自ら動かずとも、人ならざるものを使役して手間を省いてしまえと言いたいのだろう。
だが、それは違う気がする。
「咲良が元通りに帰ってこれる切欠を作るのに、肝心の俺が動かないのはおかしい。
出来ることがあるなら、俺が率先しないと意味がない」
「そうですか?結構な手間ですけどねぇ」
「手間を惜しんで咲良が帰ってくるのが遅くなるより、自分で出来ることは全部しておきたい」
「……………そうですか…、ふむ…」
守弥の気持ちに揺るぎはないと悟り、宮司は顎に手を当てる。
「分かりました。
では、ええと…………」
「守弥だ。守衛の守に、弥生の弥で守弥」
「……………守り…弥栄えるの弥ですか。良い名ですねぇ。
守弥さん、此方へお座りなさい」
「あ、ああ」
指示に従い、咲良と向かい合わせに座る。
「ゆっくり呼吸を整えなさい」
「………………」
「始めますよ」
すい、と、一筋の風を作り、宮司が術場を形成し始めた。
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