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一陣の風から術場を形成する。
咲良がしていたものよりも、更に強固な磁場だ。
「…………。
咲良さんが握っているその小さな袋…その中身はもしかして…」
「俺の対の石だが」
「………ふむ。
対の石なら、咲良さんが持っている方が都合が良い…。
ならば…、この返しの風になった花を…」
すりきれた和紙のようになった花。
それを両手で包み、宮司が力を籠める。
ふわり…。
甘い香りが立ち上ぼり、花が変化を遂げていく。
人の形の紙…それから、徐々に巫女服姿の子供へ。
幼い顔立ちで、長い髪。
くりくりした瞳。
此方の世界に渡ってきた時の、咲良に良く似た童子の姿へ変化していった。
「これは…」
「身代わり童子の変形版です。
途中ではぐれたりしないように、あなたが常に身につけているものを一つ着けてあげると良いですよ。
ああ、金属のもの以外です」
「………これなら…咲良が作ってくれた飾り紐だが…」
左手首に巻いた紐を見せると、宮司がじいっと見入る。
「常に身につけているのですね?」
「ああ」
「ならば良いのです。
あなたの気が籠っているようですし、万が一の保険になるはず。
お借りしますよ」
「………」
高く結い上げた髪に、守弥の飾り紐を結びつける。
「長い長い旅をせねばなりませんからね。
この人とはぐれないように気をつけるんですよ」
『はいっ』
「何をせねばならぬかは、ちゃんと分かっていますね?」
『はいっ』
しっかり返事をすると、身代わり童子は守弥に向き直った。
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