438 / 668
・
咲良の姿をしているが、咲良ではない。
分かってはいる。
片ひざをついたまま、石になった咲良の額に自らの額を当てた。
「ちょっと出掛けてくる。
おとなしく待っててくれよ?
………それから、これを預かっといてくれ」
ポケットから取り出した物をサッと薬指に嵌める。
『ちょ!あれ、指輪!』
『さりげに嵌めたぞ!』
『ふおおおお!』
後の事を頼むと言う意味で付喪神たちに視線を送るが、それどころではない。
萌え転がっている。
致し方なくばあ様を見れば、これもまた指輪を嵌めた咲良を激写していた。
「………。
で、何をすればいい?」
「輪廻の輪の中を走って来てください。
香久良から咲良さんまでの流れを辿り、痕跡や零れた霊力の欠片等を回収してきて貰うのが目的です」
「…わかった。
拾った痕跡は、この咲…童子に渡せばいいんだな?」
「そういうことです。
あなたが起源の護矢比古と繋がっている今なら、まだ間に合うはず」
「やってみる…、いや、やってみます。
道を開いてもらえますか」
「ええ」
請け負う宮司に頷き、傍らに立つ童子と視線を合わせる。
「俺の大事な対を取り戻す。手伝ってくれ」
『はいっ』
「取りあえず、俺にしっかり掴まってくれるか」
『はっ、はいっ』
軽く前傾姿勢になった守弥の首に腕を回す。
奇しくも、姫乞いの儀の際に迎えに行った帰りの時と同じ体勢だ。
一つ息をつく。
空気の流れが変わるのを感じながら、守弥は両足で立ち軽く踏ん張る。
「ありがとう、………夜刀比古」
「いいえ。元はといえば、私の焼きもち…いえ、あなたに対するつまらない嫉妬が引き起こしたこと。
香久良の散らばった痕跡を、どうか…」
「頑張ってくる。咲良が逃げないように見ていてくれ」
「ええ。頼みましたよ」
「ああ」
足元で巻いた風の渦が、ゆっくりと上に向く。
守弥と童子を取り囲むように吹いて、球体を象った。
「風よ、巡り巡りて起源の娘の元へ…」
しゃああああんっ!
風の球体と空気が共鳴した瞬間、境界が口を開けた。
ともだちにシェアしよう!