439 / 668

「起源の香久良の元へ送ります。 どうか無事で」 「ああ」 ゆっくりと視界が塞がっていく。 風の球体が境界を抜けて、輪廻の輪の下の方へと滑っていっているのだ。 『輪廻の輪は螺旋のような形をしております。 香久良さんのところまで滑りますので、暫くお待ち下さい』 「ああ」 咲良のようで咲良ではない。 身代わり童子と分かっていても、不思議な感覚が抜けない守弥だ。 「咲良の痕跡を追うのはわかった。 お前に渡すのも。 痕跡自体はどんな形をしているんだ?」 『痕跡というのは、人それぞれなのだそうです。 硝子の欠片のようであったり、花びらのようであったり』 「人……それぞれ…」 『大丈夫です。 ぼくが咲良さんの気配を持っているので、香久良さんと最初に共鳴りをします。 そうすれば、ほのかに光ると主さまが…』 「……………そう…か」 分かるならいい。 一抹の不安はあるが、やれることをするだけだ。 『………香久良さんまで遡るということは、守弥さんご自身の過去を遡るようなものです。 つらい体験を更に追体験する形になりますが、そこは不安には…?』 「自分のことは大丈夫、………だと思う。 そこはなんとかなる。俺が輪廻を遡ることで過去を改変したりは出来ないんだろう?」 『はい。出来たとしても、その場で守弥さんの存在そのものが消されてしまいます』 「………わかった。傍観者に徹する」 咲良を取り戻す為に輪廻を遡ることにしたのに、守弥が消されては意味がない。 ふむふむと頷き、ゆっくりとひとつ息をついた。

ともだちにシェアしよう!