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『あなたが自分の身に起こったことを追体験すると同時に、私の弱くて醜いところや浅ましいところも見られてしまいます。
それは、本当に恥ずかしくて嫌なものですよ』
「…………」
『当時の香久良は、あなたを助けるために私の要求を飲みました。
本当の意味での婚儀のことを知らなかったからこそ、でしょうね…』
「本当の意味?」
『ずっと宮仕えをしていた香久良は、子を成すことがどのようなものかを知りませんでした』
目の前にいたなら、宮司は苦笑いをしているような気がする。
守弥は目をしばたたいた。
「…………まさか…」
『いいえ。
彼女は神事や薬草にはとても明るかったのですが、実際の子供がどのように宿り生まれるかを全く理解していなかったのですよ。
それもそうです。
年がら年中精進潔斎を求められる場に住んでいましたし、懐妊した女性を見たこともありませんでした。
もちろん、婚前交渉や夜這いなども最も縁遠い状況にありましたからねぇ』
「…………」
護矢比古に掛けられた呪いを解くのを交換条件に婚儀を飲んだものの、香久良は肌を重ねるとは思ってもいなかった。
「…それは………」
どう返答したものか…。
『輪廻の輪を辿れば分かると思いますが、香久良の徹底っぷりといいますか、強情さは半端ないのですよ。
迂闊にした返事で大事になったからと…』
「は…?」
『まぁ、二千年分、しっかり見てきてください』
「……………」
なんとなく一抹の不安が過るが、守弥はほどけ始めた風の向こうに足を踏み入れた。
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