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「そうだね。
誰しもが抱くものだよ。
でも、この子らは少し違う」
「他人を羨んだり妬んだりだけではなく、お互いがお互いを憎み潰そうとするんだよ」
「だから、二人を常に一緒にしてはおけないんだよ」
「そんな…っ」
生まれたばかりで、欲もなにもあったものではない。
宿ったのを知ってから、朝な夕なに無事に生まれておいでと願いをかけてきたのに。
「一人は惣領娘、もう一人は神様に預けるのが掟。
情が移る前に預けないと…」
「………っ、せめて…首がすわるまでは…手元に置かせてください」
「駄目だよ。
それでは、情が移ってしまう」
老婆に抱かれた子を取り返そうとすると、別の老婆に止められた。
「里の社といっても、禁域となれば簡単に会うことも出来ないのに…っ!」
ほろほろと涙がこぼれる。
命をかけてこの世に産み出した子らなのに、一人は手放さなくてはならないとは…。
既に庭には社のものが控えている。
「せめて…名付けることを…」
涙をこぼしながら手を伸ばす。
「あなたはかぐら。香りの香、久しいの久、良いの良で香久良。
直ぐには無理かもしれないけれど、必ず会いに行くからね。
お姉さんと音が近い名前なのよ…。
香久夜を抱き締める時には、あなたも一緒に抱き締めるわね…」
韻が似ている名前。
香久夜と香久良。
咲耶と咲良…。
過去を垣間見る自分達はあちらのものには見えないだろうけれど、小さな声で呟く。
「もしかして、咲良は…起源のときにも親と離されていたのか…?」
『そのようですね…。
ああ、痕跡がひとつ…』
香久良の手から、小さな光が床に落ちた。
「………小さいな…」
仄かに光るそれは、まるで金平糖のようでもある。
『かわいらしいですね…。
では、それをお預かりいたします』
「たのむ」
守弥から受け取り、童子は胸元に光を埋めた。
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