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里の宮に預けられた香久良は、外部との接触が無いように宮の奥で育てられた。
ごくごく限られた機会に訪れる母から、双子の姉がいることや弟妹が生まれたことを教えてもらってはいたが、家族というものがどういうものかは良く理解していなかった。
そんな香久良が護矢比古と出会ったのが、春祭りの日…。
「これ、お供えものです…」
「お母様のお加減は?」
「まだ少し良くなくて…」
ここ暫く、護矢比古の母は体調を崩して伏せっていた。
良く効くと言われる薬草もあまり効果がなく、どうしたものかと心を痛めていたのだ。
病が治るように祈祷してもらえるようで、ほっと息をつく。
「…………」
めったに入ることのない社。
花をつけた木々を見ていると、ひらひらと風にたなびく色彩を見つけた。
「………?」
届け物をしたら直ぐに帰るように言い含められていたが、その色彩は護矢比古の心を惹き付けてやまない。
風に飛ばされた布が引っ掛かったのかと思いながら駆け寄ると、そこには一人の少女がいた。
「どうしてそこに?降りれなくなったのか?」
「………?」
小首を傾げている少女にどこかで会ったような気がするのだが、護矢比古はもう一度声をかける。
「降りれなくなったんなら、大人をよんでくる。
名前は?」
「降りれないんじゃないの」
「………?………っうわ!」
ひょいと体勢を変えて、少女はひらりと舞い降りた。
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