446 / 668

「五日分出来たから、今日はこれを。 全部飲みきっても喉の痛みが残るときは、これを吹いて」 「………?」 「わたしにしか聞こえない笛よ。 吹いたら使いがいくから、その使いについてきてね。 あと、これ。 庭に来る蜂が貯めた蜜。 喉がヒリヒリするなら、お湯に溶いて飲むといいの」 「あ、ありがとう。 おれは護矢比古。 どんなお礼をしたらいい?」 「お礼なんかいらないわ。 たまに、気が向いた時でいいから、わたしとこんなふうにお話してくれるだけでいいの。 わたしは香久良」 「かぐら?」 「そう。香りの香、ひさしいの久、良いことの良…」 「香久良…?」 「そう。香久良。 仲良くしてくれたら嬉しい」 「………っ!」 にっこり微笑む香久良に、護矢比古の心臓が逸った。 香久良の薬草畑には、季節の変わり目の不調(風邪)や、腹痛、傷だけでなく、目に効くものもあり、護矢比古はとても驚いた。 よくよく聞けば、自分より五歳も年下だという。 大人びた口調は周りに大人しかいないからだとも…。 「宮の大人は、わたしが外に出るのを良く思わないの。 里に出たこともない。 多分、里の中でわたしがいることを知らないひとがほとんど。 だから、わたしのことは内緒ね」 「うん」 「約束して。 友達にも大人にも、お母さんにも絶対に言わないって」 「約束する」 護矢比古が頷くと、香久良はにっこり微笑んだ。 初めての友達が出来て、嬉しくてならないのだと。 起源の護矢との邂逅を果たした香久良。 髪に挿した小枝から、小さな花がひとつこぼれ落ちる。 ほんのり光るそれを守弥が拾い、童子に手渡す。 『………香久良さんの…痕跡…』 淡い光にため息をこぼしながら、童子は胸元に埋めた。

ともだちにシェアしよう!