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「五日分出来たから、今日はこれを。
全部飲みきっても喉の痛みが残るときは、これを吹いて」
「………?」
「わたしにしか聞こえない笛よ。
吹いたら使いがいくから、その使いについてきてね。
あと、これ。
庭に来る蜂が貯めた蜜。
喉がヒリヒリするなら、お湯に溶いて飲むといいの」
「あ、ありがとう。
おれは護矢比古。
どんなお礼をしたらいい?」
「お礼なんかいらないわ。
たまに、気が向いた時でいいから、わたしとこんなふうにお話してくれるだけでいいの。
わたしは香久良」
「かぐら?」
「そう。香りの香、ひさしいの久、良いことの良…」
「香久良…?」
「そう。香久良。
仲良くしてくれたら嬉しい」
「………っ!」
にっこり微笑む香久良に、護矢比古の心臓が逸った。
香久良の薬草畑には、季節の変わり目の不調(風邪)や、腹痛、傷だけでなく、目に効くものもあり、護矢比古はとても驚いた。
よくよく聞けば、自分より五歳も年下だという。
大人びた口調は周りに大人しかいないからだとも…。
「宮の大人は、わたしが外に出るのを良く思わないの。
里に出たこともない。
多分、里の中でわたしがいることを知らないひとがほとんど。
だから、わたしのことは内緒ね」
「うん」
「約束して。
友達にも大人にも、お母さんにも絶対に言わないって」
「約束する」
護矢比古が頷くと、香久良はにっこり微笑んだ。
初めての友達が出来て、嬉しくてならないのだと。
起源の護矢との邂逅を果たした香久良。
髪に挿した小枝から、小さな花がひとつこぼれ落ちる。
ほんのり光るそれを守弥が拾い、童子に手渡す。
『………香久良さんの…痕跡…』
淡い光にため息をこぼしながら、童子は胸元に埋めた。
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