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里の長には二人の妻がいた。
一人は広大な畑を持ち、事あらば戦いの先頭を切っていく有力な家の娘。
もう一人は、有力な家の下働きをしていた娘だ。
当然の如く有力な家の娘は正妻におさまり、下働きの娘は身籠ると同時に村外れの林の向こうに追いやられた。
正妻の子は夜刀比古、追いやられた方の子は護矢比古。
夜刀比古の母は悋気のキツい人物で、護矢比古と母は兎に角目立たないように生きてきた。
なるべく里に立ち入らないようにしてきたし、母の体調が思わしくなければ社にも近づきはしなかった。
咳や喉の痛みが長引いて熱も引かないのを案じた父が、悋気持ちの正妻に気付かれないように届けさせた薬草や食品にも限界があり、母は薬草を少な目にして飲む羽目になったのだ。
林を回って社に続く獣道を通り、平癒の祈祷をたのみに行ったのが香久良との出会いのきっかけになるとは。
何度も礼を述べて、護矢比古はその獣道を駆け戻った。
「かあさん、社の人から薬草を分けてもらったよ」
「え…?」
香久良に言い含められた通り、薬草は小分けにしたものをほどかずに煮出して飲ませた。
「かなり濃いけど、いいのかしら…」
「今までが薄かったらしいんだ。
だから、ちゃんと決められた分で飲まないとって言われたんだよ」
「そうなの?」
「うん。
それと、乾かして使い回したら絶対にだめだって」
「………あら…」
よほど優秀な薬師に言い含められたと思ったのだろう。
母は言われた通りに服用した。
一晩で熱はおさまり、二日目には咳が減り。
三日目には胸の痛みが引いていった。
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