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里の社で分けて貰える薬草は、ことのほか効き目がよく評判になっていった。 だが、作っている人物はわからず、宮に住まう神様からの授かり物なのではと里の者は思っているようだ。 『違うけど、香久良が一人一人に合わせて調合しているって言ったらだめなんだ。 約束したんだ。 話したらだめだって』 里の者に知られたら、香久良は奥の禁域にも住めなくなってしまうらしい。 それじゃあ悲しすぎる。 でも、薬草に詳しくて博学な彼女であれば、里の中でも生きていけると思うこともある。 一度、里に降りないかと聞いてみたが、禁域で暮らすことが香久良が生きれる第一の条件だと本人から言われた。 宮から出ることが出来るのは、里以外の村へ出ていく時か、生家との関係が変わった時だとも。 『おれも長の家から疎まれてる。 いずれは里を出ていかなきゃなんない。 なら、その時は香久良を連れて行けるかなぁ…』 遠い未来のことを思うと、何故か香久良と共にあれたらという願いが沸き上がる。 それは、友としての思いか、兄のようなものか、別のものなのか…。 大人に近づいていく自分に不安を抱きつつも、笛を口許にもっていく。 ふう…。 音が鳴らない不思議な笛。 でも、それを吹けば必ず香久良の使いは護矢比古の元に訪れた。 小さな鳥や栗鼠、ときには狐や狸のこともあった。 大人びた口調の香久良は日毎に可愛らしくなり、護矢比古の心を揺らした。

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