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香久良を誰かと見間違えたのは、夜刀比古という若者だった。
護矢比古と何となく面差しが似ているような気がするが、敢えて触れずに話を聞く。
「そんなにわたしは、その″かぐや″という子に似ているの?」
「似てる。
そっくりというより、香久夜そのものだと思う。
本当に違うのか?」
「わたしは香久良。
音が似ているけど、名前も違うわ」
「………そうか…」
夜刀比古が知る香久夜は、彼の許嫁なのだそうだ。
家同士の仲が良く、三年ほど前に決まったらしい。
「どこの家の子かは…、いや、多分、香久夜の姉か妹なんだろうな。
歳は?」
「十歳よ」
「…………同じ歳か」
フムフムと頷く。
「もしかしてだけど、香久良は香久夜の双子の姉妹なんだと思う。
この里は獣腹を嫌うから、一人を家に残して社に預けたのか…」
「けものばら…?」
「ああ。
人は普通一人で生まれてくる。
けれど、稀に二人で生まれてくる場合があるんだ。
複数で生まれるのは獣のようだから、そう言われる」
「そう…。
それって、良くないの?」
「この里では良くないとされてる。
他の里では宝が2つになったと喜ぶところもあると聞くけれど…」
「………この里では喜ばれない…」
「………」
きっと、双子の香久夜に障りが出ないように自分の存在は秘匿されてきた。
人目を忍んで会いに来る母の様子を思い返し、香久良は膝の上に置いた手を見る。
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