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「香久夜は、どんな子?」 「ん?」 「綺麗で優しい?」 「優しいよ。 弟や妹の面倒をよく見るし、着るものを縫うのが得意だね」 「そう…」 同い年でどちらかが姉で妹。 優しくて、縫い物が得意。 実感はないけれど、自分と似ていて淑やかな子…。 「香久夜は……」 「うん」 「香久夜は、つらい思いとかしてない…?」 「内面はわからないけど、少なくとも生活は辛くないはずだよ。 里の中ではかなり有力な家だから」 「そう…」 今までは気づかずに来たが、こうして漏れ聞く家族の話はとても不思議な感じがする。 顔が分かるのは母親だけ。 いや、香久夜は自分と瓜二つだというから、全くわからないわけではないのか。 自分そっくりの女の子が家族と共に暮らし、弟妹の面倒を見て家の手伝いをしている…。 「…………」 想像してみるが、経験のないことで実感がない。 「大丈夫か?」 「え、ええ…」 「ごめん。離れて暮らす家族の話は不愉快だよな」 「へ…?」 不愉快ではない。 一緒に暮らしたことがないから、どう思えばいいのかわからないだけで。 「大丈夫。 なにも困ったことになっていないなら、それでいい…」 「そうか…?」 口数の少ない香久良が気になりつつも、仕事が残っている夜刀比古は帰っていった。 その日の夜。 皆が寝静まった頃合いを見て、香久良は再び屋根の上に登った。 こんもりとした森の向こうは護矢比古の家。 松明の明かりが見える方向には里長や香久夜の家がある。 色んな大人や家の事情があって、皆が何かを抱えて生きている里………。 「わたしの半分…、香久夜………」 いつか、会ってみたい。 辛い思いをしているなら、ぎゅうぎゅうしてあげたい。 何から話をしよう。 どんなことを聞けばいいのだろう。 この里を出ることがあれば、その時に会ってみたい。 香久良は満天の星空を見上げて、まだ見ぬ片割れのことを思う。 ほろ、と零れた涙がそのまま光になって童子の掌に落ちた。

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