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護矢比古と飾り紐を交わしてから、香久良はつとめて平静に過ごすように心がけた。 薬草園の世話も、社の仕事もいつも通りに。 ただ。 護矢比古が忙しくて来れないのはいつものことだが、夜刀比古が全く立ち寄らなくなったのが気になっていた。 「どうしたのかしら。 薬湯がないと咳が出る時期なのに」 そして、二人が来なくなった代わりに増えたのが、里の人々の訪問だった。 大人も子供も関係なく、体調の悪さを訴えるようになった。 「薬草を煎じて飲めば暫くはいいんだけど、体のだるさが抜けなくて…」 「熱も咳もないんじゃが、体の力が抜けていくんじゃあ…」 季節の変わり目の不調(風邪)とは微妙に症状が違う。 薬湯を処方しても効き目が薄いとなれば、それは対処の仕方が違うとなる。 表に出られない香久良は、社の奥の書物を片っ端から漁るように読み込んだ。 里の水源に異常が無く、風邪の症状とも違い、腹の具合も悪い者がない。 そして、一様に訴えるのが脱力感やだるさ…。 「………疫病とは違うのではないかしら」 初めから疑ってかかるのは良くないと、敢えて避けた文献に手を伸ばす。 「香久良も結論はそこですか」 「はい」 異常な脱力感と、里に満ちる重い空気。 症状の軽い者、重い者、異様に取り乱す者。 「疫病とは考えにくい」 「やはり、これは…」 「でも、このようなことは社では禁じられているし、この中ではその形跡はないのに」 「里人の中に、呪詛のやり方を知っていそうな者もいないはず」 「でも、これは…」 良くないまじない…呪詛によるものとしか思えないのだ。

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