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里の人々が体調不良を訴えるようになって一ヶ月近くが経った。 護矢比古も夜刀比古も全く姿を見せず、屋根に登って見渡す里には何か良くないものが漂っているような気がする。 社の大人も困惑したままだ。 「どうみても悪いまじないとしか思えない…。 里長は何も手を打っていないの?」 「まじない…、いや、呪いの形代のようなものが無いか調べさせてはいるみたいだが…」 「沢山の人がだるさを訴えるくらいなのに…」 社から出られない香久良には、どうしようもない。 なにか手を打つことが出来れば良いのにと、苛立ちを募らせる。 「どこかに形代があるはずなんだ。 それを見つけて叩ければ…」 「でも、これだけ色々影響が出ているなら、呪いを行使してる人にもなにかしらの印が出ているはず…」 「怪しい人はいないの?」 「これが、さっぱりなんだ…」 どれだけ巧妙に隠しても、暗いものを背負えば兆候が現れる。 見つけられないということは、本人が術を隠すすべを持ち合わせているか、里の外から呪いをかけているかという話になる。 「唯一里の外から呪いを掛けられるとすれば、林の向こうの親子かと思ったんだが。 あの息子はそういった素養を持ち合わせていないし、母親もかなり体が弱っていて、呪いをかけるだけの体力もない筈だしなぁ…」 「………っ!」 一瞬、心臓を鷲掴みにされたような気がして、香久良は息をつまらせる。 「林の…向こうの…? かなりって………?」 「もともと体が弱い人でね…。 親一人子一人で暮らしてきたんだが、ここ十日くらいかな……随分体力も落ちてきてるようなんだ」 「………そんな…っ。 なにか出来ることはないの? 滋養のあるものを食べてもらうとか、なにか…っ」 「………? あ、ああ。 香久良が作った薬草と、滋養のあるものを届けているよ」 「………っ」 何故だ。 母親がそこまで体調を崩しているなら、護矢比古が薬草を貰いに走って来る筈なのに。 「どうして…?そんなにいきなり体力が落ちるのはおかしいわ」 「狩りの腕が立つ息子の姿が消えたらしい。 それで…」 「…………っ、…っ!」 護矢比古の姿が消えた!? 香久良の背中を冷たいものが走った。

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