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第6話

 犬塚はよく理解できないという点は相変わらずだが、でも事実として分かったことはある。犬塚は、別にヤンキーでもなんでもない。俺と同じ、見せかけだけの高校生だということ。  どうして犬塚は、先生に目をつけられるような髪型をしているのだろうか。  犬塚のからだ以外のことが知りたかった。  ショートホームルームが終わり、生徒がゾロゾロと最寄り駅へ向かう。その波に乗って俺と犬塚も駅へ向かう。  改札を通り、電車を待つ間に俺は犬塚に話しかけた。 「なあ、今日さ……ゲーセンとか、行かねえ? 彼方駅の1駅前に遥駅ってあるじゃん? そこのゲーセン、けっこう穴場なんだよね」 犬塚はきょとんとした顔で俺を見た。 「ゲーセン?」 「ゲーセン……嫌か?」  嫌だと言われたらいつも通りに過ごせばいい。俺が犬塚の返事を待っていると、犬塚はパッと笑顔で言った。 「いや、小学生の時以来だから、行ってみたい。昔、豪拳って格ゲーあったよな?」 「ああ。あれ、まだシリーズ出てるぞ。俺も好きだからやろうぜ」 「マジ? やりたい!」  遥駅から少しだけ歩いたところに、目当てのゲーセンはある。  狭い店内にUFOキャッチャー、古い麻雀ゲーム、奥に格闘ゲーム各種の揃うこのゲーセンは、人がほとんどいないにも関わらず圧迫間のある店内だ。  俺は犬塚を連れて格闘ゲームが多く置かれた一角へ向かう。 「うわ、すっげ……めっちゃリアルじゃん! 俺がやってたときと全然画質違ぇ!」  100円を入れるとキャラクターセレクト画面に変わる。カチャカチャとレバーを動かしてプレイキャラクターを選ぶ犬塚の顔は笑顔だった。 「あ、俺が使ってたキャラもいる! すっげー……懐かしい」 「そいつ人気だから3からずっと出てるよ」 「へぇ~。あ、はじまった。え? なにこれ! 黒崎、これ奥行きめっちゃあるじゃん!」  単純な横移動だけだったが、今は壁を使って連続攻撃が可能だったりする。そして店外からの乱入といわれる挑戦者。 「なんか、浦島太郎の気持ちが少しわかる気がする」 「ちょっと大袈裟なんじゃないか?」  店内対戦をして、別にいらないのにUFOキャッチャーでマスコットを取り、たくさん笑った。  駅前の大手喫茶店に入り、コーヒーを飲む。  大層な名前の商品は注文が面倒なので、アイスコーヒー一択だ。犬塚もアイスコーヒーを注文し、そのままカウンター席へ向かう。  俺はもちろん、ガムシロップをひとつつまみ上げて犬塚のとなりの席に座る。 「やっぱ入れるんだ、ガムシロ」 「入れるよ、甘いの好きだし」  そういえば、犬塚はガムシロップをガムシロと略す。そんな気付きすら、嬉しい。 「カフェラテとかにすればいいのに」 「これがいいんだよ」  ガムシロップの蓋を開け、アイスコーヒーにとろとろと入れる。  重たいシロップが沈んだアイスコーヒーをあまり混ぜずに、ストローを引き上げて上の部分から啜る。そして最後に甘くなったコーヒーを飲むのがいい。  犬塚を見ると、アイスコーヒーを啜り喉が上下に動いている。  ストローを口から離して、犬塚が言った。 「なあ黒崎、今日はヤんなくていいの?」 「今日は、いいだろ。ふつーに、デートって感じで終わろうぜ」 「デート……デートか。悪くないな」 「たまにはさ、ヤるばっかじゃなくて、こうして、デートみたいなんも、しようぜ」  言えた。 「うん……」  伏し目がちで、犬塚は返事をした。  それからは、前みたいに俺の家でヤることは減った。もちろん減っただけで、週1か2はヤる。  ファストフード店で遅くまでダベったり、ゲーセンに行ったり、たぶん普通の男子高校生がするような付き合いをした。  普通と違うのは、俺が犬塚を好きだということだ。犬塚が俺のことを好きかはわからない。まだ、セフレだと思っているのかもしれない。  今日がデートになるのか、セックスになるのかは犬塚次第だ。どっちがいいか、犬塚に選んでもらう。 「今日は、黒崎んち……行きたい」  帰り道の学校前の電車が出発したあたりで、犬塚はどちらがいいか伝えてくる。 「了解」  電車で彼方駅まで移動して、俺の家まで歩く。  途中なんとなく、犬塚の様子がおかしい気がした。少しキョロキョロしながら、歩いている。 「犬塚どうしたん? 乗り気じゃないなら、別にしなくてもいいけど」 「いや、大丈夫」 「大丈夫じゃねえだろ、なんか変だぞ? 具合悪いなら無理しなくても……」 「大丈夫だって……今日はさ、抱いてくれよ」  部屋にたどり着いて、たくさんキスをした。夕方の住宅街は静かだ。部屋だけに、シーツが摩れる音と、俺と犬塚の唇から唾液が水音を立てる。  ローションをたっぷり使って、犬塚のまだ閉じている尻の穴に侵入していく。すぐに侵入を許す犬塚のそこは、女の子のそれと同じだ。でも、女の子とは違う。今まで付き合ってセックスをした女の子よりも、魅力的で、きれいだ。  俺の指を3本呑み込んだところで、犬塚の中から指を引き抜くと、閉じていた穴はふっくらと開ききり、ヒクヒクと震えている。  犬塚を四つん這いにさせて、もう一度その開いた犬塚の穴にローションを垂らし、コンドームを着けた俺のにもローションを纏わせる。  ゆっくりと、大事に、犬塚の中へ埋め込んでいく。 「くぅぅ……んんっ、はぁん」  一番太い部分が入るまでは少しだけ苦しそうに喘ぐけど、それを通り越すと、犬塚は甘く喘ぐ。それが合図だ。  目一杯犬塚の好きなところを突き上げる。 「あっ、くろ、さきぃ! そこ……ひ、あぁ!」  口の中に唾液が溜まって喉が鳴る。  犬塚が腕で自分の体を支えられなくなり、額をシーツに擦り付けるようにくったりと上半身だけ倒れ込む。  ヒクヒクと震える、犬塚の日焼けしていない肩甲骨にキスをした。 「痕、付けんな、よ……あっ」 「何でだよ……この前までよかっただろうが」  もう一度唇を落として、そのまま痕をつける。 「も、ダメなんだよ……頼むから」  白い肩越しに見えた犬塚の目に涙が滲んでいた。  胸が痛む。なのに、もっとその顔が見たい気もする。 「犬塚、好きだ……好きだ」 「黒崎……っ! や、やだ!」 「犬塚……好きなんだ」 「好きって、言うな……黒崎」 「嘘でもいいから、俺のこと、好きって言ってくれよ」 「ごめん、黒崎……ごめん」  謝るなよ。と言いたかったのに、声が出なかった。  犬塚の硬くなったちんこを扱くとあっけなくシーツに犬塚の精液が飛んだ。  そのままゴム越しに、俺も欲を吐き出す。  肩で息をする犬塚の背中を見ながら、キスの痕が駄目なら、いっそ酷く噛みついて痕を残してやりたいと、凶悪な思いが顔を出す。  そんなことをしたら、嫌われるのが目に見えてるからしないけど。  代わりに俺は、犬塚を後ろから抱き締めた。

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