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同室相手
「智志、智志!」
「……なんだよ」
寮というのは学年ごとに同室相手がいながらの生活。
ほとんど一人が多かった俺の短い人生だったが、高校生になると逆に一人になる事が難しくなっていた事には悩んだ。悩んで悩みまくって、悩んだけど答えなんて“我慢する”しか思いつかなかった。
集団生活なんて俺の中であまりにも縁がなかったから。
「で?」
夢中になってやっていた車のゲーム中に話しかけてきた同室相手の松村 平三 。
ちなみに同じクラスで寮の部屋も二年目。普通は学年が上がるごとに相手もシャッフルして変わるはずなんだが、平三とは二年目の同室者。
別の意味で運が強いのかもしれないな。俺、あまり人と接したくないし。慣れてる相手の方が助かる。
「お菓子食べたいんだけど」
「はぁ?ふざけんな、こっちはカーして遊んでんだ」
「ただの赤帽子髭達の愉快なゲームだろー?チーズケーキ食いてぇよー」
平三は名前だけ見ればただの平ったい三坊だ。
だけど実物は違う。サッカー部のエースを背負った爽やかイケメン。
「そろそろ“最後”になる相手なんだから作ってくれよ」
平三の言葉に俺はつい、再開していたゲームを中断させた。
「最後?」
「そ、最後。俺、明日この部屋出て行くからさー」
なんとも突然な報告だ。
「またどうした」
「はははッ、興味持ってくれんのな!」
「まぁな、突然過ぎるぞ。なに、辞めんの?」
学校を――。
しかし辞める理由がわからん。
そこまで平三を知ってるか、と聞かれたら確実に首を振る俺だけど、辞める理由がすぐに見当たらない。
彼は学年トップの、校内では有名人といっても過言ではない人だ。つまりはそんな平三と一年以上同室者としている俺はラッキーマン。
まぁそんなのどうでもいいんだけど。
「智志が言う辞めるって学校って意味か?さすがに違うって」
あ、だよな。
「じゃあなに」
「んー、無表情とかやーめーてー」
なかなか言わない平三に俺はイラついてきたのか中断していたゲームを再開。その行動に平三は空笑いをしてやっと口を開いた。
「いま付き合ってる相手と、一緒の部屋になるんだよ」
「……」
それはそれは、声だけでもわかる照れたような一言。
松村 平三には付き合ってる人が、いる。
みんな、思い出せ。ここは中高大のエスカレーター式で行ける学校。全寮制。――男子校、なんだ。
どこ振り向いても男しかいない。高校での女教師、なんてこんな俺でも夢見たような時期もあったが、男なんだ。むさ苦しいぐらい、男なんだ。そんな学校に平三の相手はいる。
そうだ、相手は男だから。
生徒会に入ってるんだか入ってないんだかで、そいつもイケメンだったような気がする。会った事あるんだけど忘れたわ。クッキー作りながらだったし。
また再開したゲームを中断して、おそらく照れ顔を晒しているであろう平三くんに振り向き、俺は言う。
「なるほど。材料がねぇからシフォンケーキな」
幸せになれよ。
そう含ませた笑顔で俺は立ち上がり、ゲームはそのままし、キッチンへ向かった。
「――あいつ、ようやく一人になれるって喜んだ笑顔だった……」
それは知らねぇよ、平三くん。
それからせっせとシフォンケーキを作りさっさと食べさせて終わらせようとしたお別れ会。
平三は明日とか言ってたけど実際は今日の夜に出て行くらしい。自室の掃除もいつの間にか終わらせてて、荷物もまとまっていた。
知らぬ間に進んでいた物事にちょっとだけ、少しだけ寂しいと思ったのは、気のせいにしとこう。
「じゃあ元気でヤれよ」
「うっわぁ、智志が言うとイヤラシイぃ」
「そうじゃねぇよ……」
「まぁクラスも一緒だからな」
「だな、はいじゃー、さいなら」
「酷ぇ」
なんて言いつつも笑いながら荷物を手にして出て行く平三。
ここの学校はホモが多い。最初は違うかもしれないが、周りに感化されて自分までホモになる展開があるとか、ないとか。
平三だって最初はノーマルで女の子が大好きな無垢なる少年だったって言ってた。今ではガッツリおホモなアツいカップルになってるわけだが。
ガチャン、とドアが完全に閉まり切ったところで出もしない涙を、雰囲気に任せて目を拭いながら鍵をかける。そしてゲーム。
「……」
父さん、母さん。
俺、こんな生活だからか全く全然、苦しくないんだよ。
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