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さらに知るべきこと
朝食メニューはいたって普通。ご飯派パン派の二択を選ぶなら断然パンを取る俺。迷わず、パンとエッグソーセージの食券を買っては頼んで適当に席につく。
休日のせいで寝てるのか朝からの学食はそれほど生徒がいなくて小さな音も響いてしまうので、いただきますも心の中で済ませる。
こうやって一人で食べるのはいつぶりか……いつもの朝ご飯は部屋で作って平三と食べてたっけ。しばらく一人が続くのか。それもそれでアリだろう……チラッと浮かんだ同室者であるらしい王司。
あいつとメシ食うとか、味わかんなくなりそうだよなぁって考えてると俺を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、やっぱりいた。智志!」
「んぁ?あ!平三てめぇよくも――!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
俺を呼んだのは昨日まで同室相手だった平三だ。やっぱり爽やかに笑うあいつは眩し過ぎる。
同室者だったせいかそれも麻痺していたみたいで、昨日振りの朝に感覚が会った最初辺りに戻ってきたみたいだ。
それにしても、やっぱり王司の件については許さん。
「なにが落ち着いてだクソ……」
昨夜は好きな人といてなにかあったんだろうか。いつもより数倍、機嫌良く食券を買っては頼んで俺と対面式で座った平三。
あーあ、お前達がハッスルしてる間に俺はな……俺はな!
やっぱり落ち着いてられるか!
「随分機嫌が悪いのな?」
「……お前は随分機嫌が良いのな」
ブスッとソーセージをフォークでぶっ刺す俺に平三は苦笑いを浮かべる。
なにもかもが、昨日は突然だった。
平三が出て行くにしても、ハイタッチしたかのように同室者相手が変わり、それがあの王司 雅也になったことにしても、その王司についても……木下の言う通り、俺がなにも知らずで悪かったのか、それとも周りがなにも言わずで悪いのか判断出来ない。
が、今のところすべては平三が悪いと俺は思うわけで。
「あー、もしかして寝てない?ごめんな、俺も実を言うとまさかの王司だと思わなくて……」
「は?」
「ほら、俺の相手って生徒会長じゃん」
……そうだったっけ。
「……今の反応を察するに言うけど、王司は副会長な?」
ぶっ刺したソーセージにもう片方で持っていたパンを口に運びながら思い出してみる。
「……」
だけど思うのは――今日ガトーショコラでも作るか――ぐらいで。
「ぶっちゃけさ、惚気でもなんでもないけど、会長は三年を退けてまで会長になるぐらいなんでも出来てね。まぁお前は知らないだろうけど?副会長の王司も会長に負けずなんでも出来ちゃうわけよ」
俺と同じパン派の平三も食べながら話を進めていく。寝れてない頭で必死に追い付こうとするが、なにがなんだか……。
とりあえず平三の彼氏は高校の生徒会長であって、王司もその副会長ってわけな。
「で、もう職権乱用だよな、こういうの。会長曰く、俺と王司を交換してくれって王司から言われたらしいんだよ」
それが決まったのは俺が出て数分後のこと――。
そう言ってついていたスープをひと口すする平三。
ようは生徒会長の力で部屋の交換を、通常なら二日三日以上かるものを僅か数分でおさめたってことか?
だから俺に引継ぎも出来ず、いきなり王司が来たのか?
「なんであいつ、そんなことしたんだろうな。俺の他にももっといるだろうに」
「なぁ?なんでだろうとは考えたけど、俺も考え付かずそのまま寝たよ」
「本当かよ。どうせヤッたんだろ?あ?」
「……やめろよ」
うっわ、こいつ図星だ。照れたか?
照れてるのか?
「つか、え?お前掘られる方だったわけ?」
俺の言葉にサラダを刺していたフォークを落とした平三。表情から『今さら?』と伝わったのはなぜだろう。
「まぁさ、俺も興味ないから王司の事なんてホモでタチってことぐらいしかわからないけど……」
「それな、木下にも聞いたよ」
「俺から言えるのは、頑張ってってこと」
頑張って、って……なにをだよ。別に俺が頑張ったところで王司からしたら、なにやってんだコイツっていう目で見られるだけだ。
手錠のこととか。キスをされたこととか。もっと俺を、貶してとか……。こういうのは平三に言った方がよかっただろうか。
木下にはキスされたことについては言ったけど手錠と貶して発言については言ってない。
ショックと混乱で興奮していた俺は印象が大きかったキスについて、ファーストキスについてとことん喋っただけだった。……でもまぁ、いいか。
とにかく、同室者は王司になったっていうのと、無意味な頑張りをしつつ、今日はガトーショコラを本当に作ろうと思いながら普通に平三と喋りながら朝食を済ませた。
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