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知ったこと

   食べ終わった食器を片づけた後、平三と別れて欠伸をしながら部屋に戻る。  やっぱり寝ないと体が持たないな、なんて若いながらも夜明けオールが苦手だと再確認。眠い目を擦りながら鍵をポケットから取り出して自分の部屋であるドアを開ける。  王司、は……いない、と。  入ってすぐのリビングは遮光カーテンで塞いであって暗い。微妙にずれているテーブルの角度を見て昨日の出来事は本当にあったんだなぁと実感。  いや、やっぱりファーストキスは大事だって。ショック受ける俺は正しいって。  先にシャワーを浴びてから自室に行こうと済ませる俺にキッチンを覗けば飲みかけジュースのコップが置いたままになっている。あいつ性格的にすぐ片付けないな?  小さな舌打ちとともに出しっぱなしのコップを洗って、やっと愛しのベッドへダイブしようと自室のドアを開けるためドアノブに手を置く。  隣同士の同室者の部屋。向かって左が俺の部屋で右が平三――ではなく、王司の部屋になってるはずだ。そういえばさっきからやけに静かだが、王司はまだ寝ているのか?  別に休日だからいつ起きようともいいが、学食での朝食の時間は限られてる。  確か8時までだったか……それ以降になると部屋に戻ってキッチンで作るかカップ麺とかそういうのにするしかないのだ。  王司が料理作れるなら問題ないが、作れないとなると空気的に俺が作らなきゃいけないだろ?  でも面倒だ。眠いしな。  だとすると一度起こすために声をかけるか……とまで考えたが、俺がそこまで甲斐甲斐しく世話しなくてもいいような気がしてきた。  昨日の今日で、あれからやっと12時間経ったか経ってないかの間だ。  俺が気まずい。やっぱり寝よう。  そう思ってやっと開けた自室のドア。ここも遮光カーテンで窓ガラスを塞いでいて暗い。暗いけど、なんだか違和感を感じた。  まるで昨日の、寝落ちしたあとの感じ。なんだ?  なんか、変な匂いが……つーか、ベッドが膨らんでる……?  においは置いて、目がいったのは俺のベッド。こう……誰かがいるような気がした。でもここは俺の部屋であって自室だ。  誰が入る?……え、同室者である王司?  不意に昨日の王司を思い出す。そして、なぜだか――あいつならあり得る行動だ――と思ってしまった。  そんな予想した俺が怖くて、つい苦笑いを浮かべつつ、変なドキドキをなくしたくて勢いでベッドに近付いた。 「ははっ、枕かもとか思ったけど……違ぇわ」  膨らみの正体は枕だろう、なんて思っていた瞬間もあった。だけど枕はちゃんとある。だけど、近くで見れば、人の形で膨らみがある。  微かに震える手で掛け布団に手をおいて、そのまま、また勢いに任せて、 「ふん!――ぶッ!」  めくって、また掛けた直した。全裸の王司が、そこにいたせいで。 「っ……」  俺の心臓は間違いなくドキドキしている。嬉しいとかのドキドキじゃない、恐怖心のドキドキだ。  いや、いやいやいや……!  ねぇよ……あれはねぇよ!  なんで王司が俺のベッドの中に――いや、もうそれはいいんだ……問題は、どうして“全裸”なのか、だ!  おかしくないか!? 全裸って!  しかも俺はまた気付かなくてもいいものを気付いてしまった……。  それは、変なにおいだ……。めくって、また掛け直したあの一瞬で見えたもの。薄暗いなかで見えたもの、手の感触で思ったもの。  このニオイはあれだ……精液のニオイだ……。  いつやって出したのかわからないが確実に掛け布団についている。触ってしまった右手を見てみるが、付いた様子はない。ただし、乾いてるせいでカピってた……。  これは予想だが掛け布団だけではないだろう……。このベッドに何回か、出してるに違いない……。 「やっぱ、ねぇわ……っ」  白目状態の俺はもう一回この部屋から逃げようと体の向きをベッドからドア側に変える。  その瞬間に、俺の体は後へ倒れた。  

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