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嫌がらせじゃないイヤがらせ

   ガトーショコラは、作る。 「智志君、ベッドにあった布団、替え持ってきたよ」 「そうか、ならあとはお前の部屋にあるマットレスと交換してこい」 「……っ!――わかった」 ――絶対、変な事思ってるな……。  あれから結局、寝れずもう一度シャワーを浴びて私服へ着替えた俺。用事が出来たから。  出掛ける支度を済ませるとやっと服を着た王司が首を傾げて俺を見ていた。なにも言わず、ただずっと俺を見ていたのだ。  王司 雅也は変態。  それがわかった今、俺に出来る事は一つなわけで……目を合わせず王司には『まずシャワー浴びろ。それから俺の部屋の換気。窓全開にしとけ。そのあと布団は寮長にしろ生徒会長様にしろ、副会長の力ですぐに取り替えてこい』と伝えてホームセンターへ向かった。  ホームセンターへ向かった理由は、俺のあの部屋に鍵を付けようと思ったから。……あのままだったら確実になにかがやばいだろ?  あぁ、明け方に呑気な考えをしていた俺を殴りたい!  木下の言う通りだ……俺は呑気野郎で傷つかないだの空気に慣れてるだの、そんな事言っていた俺を殴りたい!  あと、ホームセンター帰りにビターチョコも買っといたけど。  だから、ガトーショコラは作る。 「智志君、出来たよ」 「……言っとくけど、交換したマットレスでなにかやるんじゃないぞ?」 「やっ……らない、よ?」  うそくせー! 信用出来ねぇ!  なぜなら王司自身から『変態なんだよ』って聞いたから!  有名人である王司 雅也にビクビクしていたが今ではすっかり平三なみの扱い。  そう、変態だとわかってから口悪くも出来るし自分を守るための攻撃も出来ることになった。――まぁ一度しかまだ自分を守ってないけどな。 「じゃあ、話すか」 「……」  以前、平三が買ってきてくれた――いや、持ってきてくれた?――オーブンでガトーショコラを30分焼くだけ。その間に、話をしようと思う。なぜ、あんなことをしたのか。  最初の方だって遡れば聞きたい事もあるしな? 「王司ってホモだったの?」  その問いに王司は躊躇いながらも頷く。 「あー、生徒会役委員にも入ってんだっけ?」  同じく、頷く。  うちの副会長は変態なのかよ……なんて余計な考えはいらないな。 「……あの手錠って、やっぱ手錠なのか?」  おいおい、手錠の他になにがあるんだよ。おかしくなった質問は俺の中にいるもう一人の俺がそうツッコんできた。  なんつーか、認めたくない部分もあるというか……変態と聞いた今ではあれは本物の手錠なんだろうけど、確認のためにな? 「うん、手錠だよ。外すための鍵は惜しくも俺の部屋にある」  なんて苦笑い気味で答えた王司は自室を指差していた。  惜しくも、ってなんだ……なぜそう悲しそうな表情で答えた?  意味がわからない。 「……どうして“初対面”で手錠したまま挨拶してきたんだ?それと、俺のファーストキス!舌まで入れてきやがって!」 「……っ」  つい感情が出てしまったせいで、テーブルをドンッと殴りながら叫んでしまった。  泣きたくても泣けない喪失はでかい……とはいえ、どう考えても後戻りが出来ないから諦めて立ち上がろうと頑張ってる時なんだが、な……。 「智志君」 「あぁ?」  少し怯えたような目をする王司は恐る恐る話しかけてきた。……あの有名人が俺みたいな平凡野郎相手に怯えてやがる。 「俺と智志君は、別に初対面ではないよ?ただこの部屋で会うのは初めてになるからちゃんとした挨拶をしたけど」 「ん……?」  次に首を傾げたのは、俺のばんだった。  

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